アート体験にまち歩きをプラス。ツアーで楽しむ「札幌国際芸術祭2024」
札幌を舞台に繰り広げられるアートイベント「札幌国際芸術祭2024(以下、SIAF2024)」がいよいよ開幕した。最新アートと触れ合える2月25日までの約1か月の期間中は、さまざまなガイドツアーも用意されている。その中から、アートを楽しみながら札幌の歴史や街づくりについても学べるまち歩きをセットにしたツアーに同行した。
Photo: Kentaro Suda / text: Gentaro Kodama
未来につながる2つのストーリーで構成されるSIAF2024。
3年に一度のアートイベントが札幌に帰ってきた。これまで2014年、2017年と開催されてきた「札幌国際芸術祭(略称:SIAF[サイアフ])」。2020年は残念ながら中止となったため、今回が実に6年半振りの開催となる。しかも冬に行われるのは初めての試みだ。世界的に見ても約200万の人口規模ながら、5m以上もの雪が降る都市は札幌だけ。その札幌の魅力や特徴をもっとも発揮できるのが冬だと考え、今回初めて冬季に開催する。
SIAFとは、札幌で最新のアート作品に出合える特別なアートイベント。世界中からアーティストが集結し、ディレクターが設定したテーマに基づいた作品展示やプロジェクトが行われる。
世界のさまざまな場所で国際芸術祭が開かれている中で、ユネスコ創造都市ネットワークに「メディアアーツ都市」として加盟している札幌での芸術祭は、絵画や彫刻といった古くからあるアートだけでなく、コンピューターなどのデジタル機器や、インターネットなどの通信技術によって変化した社会や生活、人間のありようをテーマにした「メディアアート」と呼ばれる作品が多く紹介されているのが特徴。
ディレクターはこれまで坂本龍一氏、大友良英氏らが歴任してきたが、今回は「アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ」の共同代表で、自らもアーティストとして活躍する小川秀明氏が担当している。
SIAF2024では小川氏の掲げる「LAST SNOW」をテーマに、世界10カ国以上から約80組のアーティストが集結。100年後の札幌の雪はどうなっているかなど、アートを通して「未来への問いや行動」が表現されており、「アート×テクノロジー×サイエンス」の新しいアイデアが詰まった作品展示やプロジェクトが行われている。
SIAF2024は主に6つのメイン会場で繰り広げられているが、それらは大きく2つのストーリーで分けられる。一つは、アートを通した「200年の旅」の物語。札幌市中心部にある札幌文化芸術交流センター SCARTSと北海道立近代美術館、未来劇場の3会場は、それぞれ「現在」「過去―現在」「現在―未来」をコンセプトに展開されていて、1924年〜2124年を巡るタイムトラベルのような体験が楽しめる。
SIAF2024のめぐり方はこちら
一方、郊外のモエレ沼公園、札幌芸術の森美術館、そして2月4日〜11日の期間限定で登場するさっぽろ雪まつり大通2丁目会場の3会場をくくるのは「未来の冬の実験区」というストーリー。こちらはそれぞれに独立し、未来に向けた新たな試みや実験的なアート体験が用意されている。
会場ごとに個性があり、複数の会場を訪れることで、アートの世界がどんどん広がっていく仕組みのSIAF2024。アートというと難しく感じる人もいるかもしれないが、SIAF2024は親しみやすい構成で、たくさんの会場を訪れるほど、理解が深まり、面白さも増していくはずだ。
SCARTSで冬の札幌と、アートの現在地を知る
SIAFとの連携ツアーを企画しているのは、以前にこちらの記事で紹介した札幌のまち歩きガイドツアー「闊歩札幌」を主催するエゾシカ旅行社。バスツアーを含む4コースがあるうち、今回は札幌文化芸術交流センター SCARTS (以下、SCARTS)を出発し、市街地を歩きながら大通公園を経由して未来劇場(東1丁目劇場施設)を目指すコースに参加した。
集合場所はSIAF2024のメイン会場の一つであるSCARTS。まち歩きガイドツアーはその1階にあるSIAF2024総合インフォメーションに集合し、ガイドブックを見ながら、まずは6つの会場を知ることから始まる。
スタート地点のSCARTSで体験できるのは「札幌の今」。他の会場が過去、そして未来をコンセプトにつくられていることを考えると、ここを起点に巡ると会場ごとの変化をより感じられて分かりやすいだろう。実際、エゾシカ旅行社のまち歩きガイドツアーはすべてSCARTSからスタートする行程になっている。
雪国の都市研究や札幌の冬の自然や歴史についてまとめた展示も見られるSCARTS。
まち歩きガイドツアーでは、「作品を自由に見て、楽しんでもらいたい」という意向から、同行するガイドが作品を解説することが基本的にない。ただ、SCARTS 2階に設けられた雪国の都市と自然について知ることができる調査研究の展示だけは別だ。「ここは、冬の札幌で国際芸術祭を開催する意味を知ってもらえるスペース」と、ガイドの中根さんは丁寧に説明する。
まちを歩き、大雪とともに生きてきた札幌の歴史や暮らしを実感
SCARTSを出た後は、札幌市時計台、大通公園、さっぽろテレビ塔という札幌を代表する人気の観光スポットを巡る。
今回のSIAF2024では、「未来」をキーワードにした展示やプロジェクトが多くあるが、中根さんは「札幌の時計台も過去と未来をつなげる象徴的な場所なんですよ」と共通点を挙げる。明治政府によって開校した札幌農学校は、北海道開拓の象徴として知られるが、実際にはその先の日本を担う重要な人材育成を目指した学校という側面も持っている。さらに元々は演武場だった時計台も有事の際に日本を守るための兵役訓練が行われた場所。どちらも日本の未来を見据えてつくられた場所であり、ここから近代日本の未来が開かれたともいえるのだ。
また、さっぽろテレビ塔では展望台に上り、SIAF2024の各会場を上から確認。残念ながら札幌芸術の森美術館だけは山に阻まれて見えないが、未来劇場やSCARTSはすぐ真下にあり、北海道立近代美術館も見えれば、天気が良いとモエレ沼公園を遠くに確認することもできる。ここでは、札幌の街並みがどのようにしてつくられてきたかなどのガイドもあり、札幌のまちの歴史と広さの両方を体感できる、なんとも贅沢な時間だ。
ツアーでは、ツルツルの雪道で滑って怪我をしないよう、縦横に張り巡らされている地下街を駆使しながら移動する。名古屋や福岡などにも地下街はあるが、中根さんは「札幌は温かさが違いますよ」と、その理由を説明。さらに地下街の歴史や人気店なども歩きながら紹介していく。「移動時間はフリータイムなので、参加される人たちの興味によってフレキシブルにお話ししています。よく聞かれるのは、札幌の名物や人気店。そうした“旅ナカ”の相談にも乗れるのは、まち歩きガイドツアーの醍醐味です」。
実際の劇場の裏側も見れる「未来劇場」で100年先を考える
スタート地点のSCARTSと目的地の未来劇場は、地上から徒歩で約5分という近さにあるが、札幌市時計台やさっぽろテレビ塔を経由するガイドツアーではまち歩きをじっくり楽しみ、約2時間かけて未来劇場に到着。ツアーはここで解散となり、劇場にはガイドと別れて入って各自自由に見学できる。
「SIAF2024で未来劇場と呼ばれている会場は、元々は劇団四季の劇場だった施設。吊り物などの舞台機構がそのまま使われていたり、ステージ裏の控室に作品が展示されていたり、作品だけでなく、普段は入れない劇場の裏側を見られるのも魅力の一つです」。
「SIAF2024」については概要だけを伝え、「芸術祭の内容は自分の目で見て感じてほしい」と話す中根さん。
実際に足を踏み入れると、そこに広がっていたのは「100年後の未来」の風景。ぜひご自身の目で確かめてもらいたいが、SIAF2024で展示されている作品は、写真で見るのと実物を見るのとではまったくといっていいほど見え方が違う。アートには“鑑賞”という言葉がよく使われるが、SIAF2024は“鑑賞”ではなく、まさに“体験”。写真では伝わらない動きをするものもあれば、大きさや迫力にあっ!と息を飲むものもあり、そのすべてからメッセージを感じ、自分の中に考えが生まれてくる。作品が問いかける未来とは何か。雪が積もる札幌の歴史や暮らしを学べるまち歩きの中にも、それを読み解くヒントがきっとあるはずだ。
INFORMATION
札幌国際芸術祭2024(SIAF2024)
会期:2024年1月20日(土)〜2月25日(日)
会場:未来劇場(東1丁目劇場施設)/北海道立近代美術館/札幌芸術の森美術館/札幌文化芸術交流センター SCARTS/モエレ沼公園/さっぽろ雪まつり大通2丁目会場 ほか
サテライト会場:札幌市資料館(旧札幌控訴院)
公式サイト:https://2024.siaf.jp/
札幌国際芸術祭2024×闊歩札幌 まちあるきガイドツアー
開催日:期間中、常時開催
集合場所:札幌文化芸術交流センター SCARTS 1階
参加手法:要申込
詳細・申込:https://www.ezosika.co.jp/siaf2024/