まち歩き
2023.10.20

札幌の街をもっと楽しむために。プロのガイドと歩く「闊歩札幌」という選択。

その街を知ると、旅はもっと面白くなる。まち歩きのガイドは、ボランティアの方々が努めていることが多いが、「闊歩札幌」は現役の観光のプロと街を歩く。プロの視点で街を散歩すると、一つ一つのスポットにまつわる知識はもちろん、街全体を踏まえたつながりなどもよく分かり、より広く、ディープに街を知ることができる。そのことを体験すべく、実際のツアーに参加し、企画からガイドまでを務める中根萌さんに話を聞いた。

photo: Ryoichi Kawajiri / text&edit: Gentaro Kodama

札幌の街は歩いてなんぼ!距離感もつながりも分かりやすい!

北海道に開拓使が置かれて150年以上。その間に積み重ねられてきた人々の生活が歴史を刻み、さまざまな物語となって札幌の街に溢れている。「闊歩札幌」に参加すると、そんな札幌の街に広がる過去と現在とのつながりが至るところから見えてくる。

参加したのは「二条市場ランチツアー」。札幌中心部にある札幌市時計台をスタートし、札幌の街を東西に分ける創成川の東側、通称「創成イースト」を巡る。

朝10時に札幌市時計台を出発し、創成イーストを中心に約150分のまち歩き。お昼は二条市場で新鮮な魚介に舌鼓!

「札幌には市電や地下鉄、車など、さまざまな移動手段がありますが、歩いてみると時計台や市役所、テレビ塔といった札幌を代表する建物が意外と近いことが体感的に分かりやすく、街の造られ方や建物と建物のつながりも実際にその目で見た方が理解しやすいんです」と中根さん。

中根さん(写真右)は大学院で観光学を専攻。夫の宏樹さん(写真左)が代表を務めるエゾシカ旅行社で「闊歩札幌」の企画とガイド、さらには札幌を中心としたSIT(Special Interest Tour)などを手がけている。

その言葉通り、新たな発見や驚きはスタート地点の札幌市時計台から詰まっていた。時計台は想像よりも小さくてがっかりしたという人もいると聞くが、ぜひガイドと一緒に訪れてほしい。時計台は元々、札幌農学校(現北海道大学)の演武場として建てられたもの。キャンパスは別の場所に移ったが、時計台のある敷地はかつて北海道での大規模な農業や酪農の基礎を築いた学校の跡地であり、札幌農学校が果たしてきた貢献度を知れば知るほど、びっくり。今もビジネスマンが往来する街の中心に残され、愛され続けているのがよく分かる。

正面から撮影するのが定番の時計台だが、実は札幌市役所にも撮影スポットが!

ツアーの道中には、テレビ塔に登らなくても市内を見下ろせる穴場スポットも紹介。ここは札幌市民でも知らない人が多いのではないだろうか。

観光名所として知られるテレビ塔でプロポースした人もいるとか!? そんな小ネタが聞けるのもガイドツアーならでは。

初めての街なのに、地元のような親近感が増してくる!?

二条市場ランチツアーでは、かつて市民の台所として親しまれ、現在も観光スポットとして人気の「二条市場」を目指すが、周辺は「創成イースト」と呼ばれ、近年再開発が進むエリア。開拓当初から昭和までは商売人や職人たちが暮らしていた歴史があり、今も当時の面影を残しながら、この20年で人口が3倍に増えた活気溢れる地域になっている。

「ガイドとともに、ゆったり堂々と街を歩くツアーということで『闊歩』と名付けた」という「闊歩札幌」は、単に札幌の昔を知るためのガイドツアーではない。それは歴史ある「北海道神宮頓宮」や「二条市場」といった場所を一緒に歩くと分かってくる。中根さんがガイドするのは、その場所の歴史とともに、現在はどのような街になっているかということ。聞いていると、その地域に暮らす人たちを近くに感じてくるから不思議だ。

クラウドファンディングで大神輿が復活した北海道神宮頓宮。そのエピソードからも地域に暮らす人たちの街を愛する熱意が伝わってくる。

この日のランチは二条市場にある「たけ江鮨」へ。ご主人との会話が楽しめるのも魅力だ。

ほどよく歩いた後に味わう市場の新鮮な魚貝。食後の幸福感がハンパない。

「二条市場周辺のエリアが面白いと思ってツアーを企画しましたが、このツアーは私たちが作ったというよりも、実は地域の人たちとのつながりから自然とできていったんです」と振り返る中根さん。

「下町っぽい古さと新しさの両方があって面白いなと思っていたら、二条市場の目の前にある『寿珈琲』の店主で『さっぽろ下町づくり社』の理事でもある柴田寿治さんと知り合い、そこから地域のいろんな人とつながっていって。エリア自体にパワーがあり、その人たちとの縁でツアーがカタチになっていったんです。だから、旅先に来ているのに、その地に溶け込んで、地元に居るような感覚になってもらえるのかなと思います」。

ツアーのラストは「寿珈琲」で一服。みんなで感想を共通し、ガイドからもさらなる裏話が聞ける貴重な時間だ。

札幌には、旅を楽しくしてくれる物語がまだまだある。

「闊歩札幌」では今回参加した二条市場ランチツアーのほかにも、大通公園や赤れんが庁舎の愛称で知られる北海道庁旧本庁舎などの札幌観光で外せないゴールデンルートを巡るツアー、すすきのでハシゴ酒を楽しむツアーがある。さらに2024年1月20日〜2月25日には「札幌国際芸術祭(SIAF)」とタイアップした札幌市内のアート空間を巡るガイドツアーも企画している。

「芸術祭をさらに盛り上げられたらと、行程に芸術祭会場を含むコースを別に4コース用意しました。札幌には幅広い分野のツアーを企画できる可能性があって、今後はラーメンに特化したコンテンツも作りたいと思っています。あとはビール。切り口はまだまだたくさんあります」と中根さんは目を輝かせる。

中根さんが思い描いているのはガイドツアーが日常的にある札幌。「いろんな人たちがまち歩きしている姿を見られたら」とガイドの育成にも力を入れている。

札幌の街はそのポテンシャルの割にまだまだガイドツアーは少ない。「ガイドが違うと同じコースでも違う楽しみ方ができるのも面白いところ。ベテランガイドの馬上千恵さんは樹木インストラクターの資格も持っていて、また違う視点で札幌の街を紹介してくれます。札幌の魅力は食だけに限りません。まち歩きを通して、ぜひ札幌の街の楽しみ方を知ってもらえたらうれしいです」。

まち歩きガイドツアーとは「点と点で散らばる地域の魅力を線でつなぎ、面として見せてくれるもの。そこが良いところだと思います」と推す。

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