北海道米のおいしさを味わい尽くす、札幌ごはん紀行
かつて北海道は米の生産において「不毛の大地」と言われていたが、今や新潟県に次いで作付面積は全国で2番目、日本でトップクラスの収穫量を誇る。「ゆめぴりか」「ななつぼし」「ふっくりんこ」など北海道を代表するブランド米が続々と登場し、現在主食として食べられるうるち米だけでも10種類以上の品種があるという。北海道グルメを愛する旅人にはもちろんのこと、「米の味なんてどれもそんなに変わらない」と思っている人にこそ、この機会にぜひ味わってほしい。
Photo: Yoshitaka Morisawa / text: Aiko Ichida, Tamaki Soga

「土鍋めし ひなた」にて撮影。ごはんは岩見沢産「ゆめぴりか」。
北海道米のおいしさが飛躍的に向上したのは20年ほど前からと言われている。品種改良によってさまざまな品種が生まれ、中でも「ゆめぴりか」や「ななつぼし」など日本穀物検定協会の全国食味ランキングで最高ランクを獲得。今やブランド米として全国的に高い知名度を持つ。それぞれに甘み、粘り、コシなど、特徴的な食味があり、複数の品種を備えて食べ比べれば、素人でもその違いが分かるほど。用途によって使い分けている食通もいるとか。そこで今回は北海道米のおいしさを知り尽くし、その魅力を発信する3人に話を聞いた。
「土鍋めし ひなた」店主・中村陽太さん
ごはんをおかずに、ごはんを食べられるぐらいおいしいごはんを提供したい!

土鍋の蓋を開けるとふわふわの湯気が立ち、ふくよかな甘い香りが漂う。炊き立てのごはんはそれだけで十分なご馳走だ。
「ハンバーグがおいしい、魚料理は絶品だっていうお店はあるけれど、うちのごはんは最高っていうお店は少ないよね」と微笑むのは、『土鍋めし ひなた』の店主・中村陽太さん。その名の通り、土鍋で炊いたごはんが主役の定食屋は年々クチコミで評判となり、昼夜の食事時には満席になることも少なくない。
米は岩見沢市の農家・松永園から「ゆめぴりか」を直接仕入れている。「何種類か食べ比べて、決めました。精米した翌日にはお店に届けてくれるので、それもありがたいですよね」。お米は精米して時間が経つと表面の脂質が酸化し、水分量も減ってしまうため、もっちりした食感や甘みが失われていく。言わずもがな精米したてのお米は食味がよく、しかもそれを土鍋で炊いたごはんとして味わえるのはこの上ない贅沢といえるだろう。

お店で使用しているのは、お米を炊くために開発された長谷園の土鍋「かまどさん」。
土鍋を中火にかけて13〜14分経過すると、鍋蓋から蒸気が噴き上がる。それが落ち着いたら火を止め20分ほど蒸す。この間にじわじわとお米の旨みが引き出されるらしい。さらに蒸し終わったら、一度お櫃(ひつ)に移し、水分を飛ばして“米を落ち着かせる”工程を経て、ようやく飯碗に盛り付けられる。ふっくらと炊き上がったごはんは艶やかで、見た目にもおいしそう。さっそく炊き立てふわふわのごはんを一口いただくと、食感はもっちり。程よい粘りがあって、お米の一粒一粒からやわらかな甘みが広がる。実に味わい深い。

提供しているごはんは白飯のみ、一膳150円でおかわりが1杯無料。ごはんだけでも十分おいしいが、厳選した卵や音更町の日向発酵食品の大粒納豆など、ご飯のお供も人気。夜、締めに注文する人も多いというおにぎり(1個300円)はたらこ、明太子、梅、おかかの4種類から選べる。
炊いたご飯は保温せず、土鍋の余熱で温かい状態のまま1時間以内に提供する。また水分量が多いゆめぴりかを扱う上では古米と新米で浸水時間を変えたり、炊き上がった後にお櫃(ひつ)に移して余分な水分を飛ばす(あるいは天候によって水分を含ませる)など手間もあるが、日々「米を炊く」という仕事に向き合う中村さんは、手間さえも楽しんでいるように見える。目指すは「ごはんをおかずにごはんを食べられるぐらいおいしいごはん」。この“究極”の一膳は、きっと忘れられない味になるはずだ。
「土鍋めし ひなた」

札幌市中央区宮の森3条6丁目5-10 ディアプラザ1F
TEL:011-215-8819
ランチ11:00〜15:00 ディナー17:00〜21:00
火曜定休
ライスボールプレイヤー/「薄野しんせん」店主・川原悟さん
出来立てでも冷めてもおいしく食べるには、品種のブレンドがコツ
「ライスボールプレイヤー」という耳慣れない肩書きの川原悟さんは、20才で米店に就職して以来、米業界に携わること四半世紀以上。勤めていた老舗米店でおむすび屋をスタートさせた。当時珍しかった注文後に握る出来たて提供スタイルが受け、ほどなく繁盛店に。「お客さんを待たせてはいけないと、どんどん握るのが速くなっていきました」と笑う。客前で高速で握るパフォーマンスも評判となり、全国各地で行われる北海道物産展などのステージイベントで握ることも増え、いつしか自らを「ライスボールプレイヤー」と名乗るように。国内はもちろん海外のイベントにも呼ばれ、アメリカやヨーロッパ、東南アジアなど各国で実演。「北海道米を鞄に入れて世界中飛び回りました」と、北海道米とともに日本の米文化を発信し続けてきた。

おむすびを握る一連の動作が美しいライスボールプレイヤー・川原悟さん。「家でおむすび用の米を炊く時は、粘りが出すぎないよう、浸水させずにすぐ炊くのがおすすめ」。
川原さんのおむすびは、必ず数種類の北海道米をブレンドする。「おむすびは作ってすぐ食べる場合と、時間が経って冷めてから食べる場合がありますよね。どちらもおいしく食べるには、ブレンドするほうがいいんです」。
「ゆめぴりか」は、粘りが強く、甘み、旨みが濃い人気の品種。「お茶碗で出来たてを食べるなら『ゆめぴりか』だけでおいしいけど、粘る品種は冷めると硬くなる。だから、冷めても硬くなりにくい『ななつぼし』や、冷めてもふっくらしている『ふっくりんこ』を加えてブレンドすることが多いです」。

「米の炊き方を1つアドバイスするなら、洗いすぎないこと。3回すすいで、3回撫でるように洗うだけ。洗いすぎて旨さを流さないで」と川原さん。
そんな川原さんが、“お米人生”の集大成として2月中旬(予定)、自身の店「薄野しんせん」をオープンする。道外・海外にいる期間が長く、「札幌で川原さんのおむすびを食べたい」と願っていたお客さんの声にやっと応えるかたちだ。昼はおむすびと道産食材を使ったお惣菜を楽しめる店(イートイン、テイクアウト可)、夜はおむすびの具材をあてにお酒を飲める居酒屋となる。「北海道179市町村を主役にしたい。米、魚介、肉、日本酒すべて北海道産です」。
米は、北海道の米どころ各地の多様な品種を揃え、炊く分だけを毎日自ら精米する。これまで600以上の具材でおむすびを握ってきた川原さんに、旅で訪れた人に何を食べて欲しいか聞くと、「北海道米のおいしさを感じてもらうなら、やっぱり塩結びかな」とニッコリ。
北海道米を知り尽くしたライスボールプレイヤーが、おむすびに合わせてブレンドし、季節に合わせた水加減で炊き、プロの技で握る塩むすび。シンプルで極上のおいしさを味わってほしい。

米のおいしさをじっくり味わえる塩むすび。日によって使う米の品種や産地は異なるので、その日ならではの味を楽しめる。
薄野しんせん
札幌市中央区南4条西4丁目 第5グリーンビル4F
TEL:011-600-6052
営業時間11:00〜23:00 ※途中休憩あり
日曜定休
北海道住みます芸人/JA北海道スペシャルサポーター・オジョーさん
推しは「ななつぼし」! 生ラムやスープカレーとの相性もバツグンです。

JA北海道スペシャルサポーターとして農家を訪ねたり、実際に収穫体験をしてその様子をYouTubeで配信するなど、地元食材の魅力を発信しているご当地芸人オジョーさん。
オジョーさんは、札幌よしもと所属の芸人さん。食べることが大好きで、食育インストラクターや野菜ソムリエJr.の資格を取得したり、地元農家の協力を得て子育てサロンを開催するなど、活動の幅は広い。中でも米には並々ならぬこだわりと、愛がある。「住まいは札幌から車で40分ほどの岩見沢市で、北海道有数の米どころです。生産者さんが身近にいるので、やっぱり地元のお米が一番おいしく感じますね」。
イチオシは「ななつぼし」。味と食感のバランスがよく、毎日食べるのにちょうどいいおいしさなのだと教えてくれた。白いごはんはもちろんだが、丼ものやチャーハン、カレーとの相性もよく、使い勝手の良さが魅力なのだとか。もちろん、北海道を代表するグルメとも好相性。「私は焼いた生ラム(肉)に少しだけお塩をつけて『ななつぼし』と一緒にいただくのが好きすぎて。もう、ごはんが止まらなくなります」と興奮気味に語る。ほかにも札幌で人気のスープカレー店やレストランなど、岩見沢産の米を選ぶ飲食店は多いという。

お米が大好きな息子さんのために、幼稚園時代はほぼ毎日お弁当にごはんやおにぎりを詰めていたというオジョーさん。「わが子は地元・岩見沢産の『ななつぼし』で大きくなりました!」と誇らしげに笑う。
プライベートでは7才の男の子ママ。朝食はお茶漬けがルーティンという息子さんのため、毎日ごはんを炊いている。品種はもちろん「ななつぼし」。「朝晩2食、お米を食べています。先日カレーを作ったら、ごはんを4回もおかわりして、びっくりしました」とオジョーさん。これから食べ盛りを迎える息子さんの成長と共に米の減り具合も気になるところだが、それも含めて楽しみと語る。
最後にお土産におすすめのお米を紹介してくれた。「北海道米の2合(300g)サイズの商品があるんです。私も以前開催したイベントで農家さんに協力してもらって、参加者に小さなパッケージのお米をプレゼントしたことがあるんです。そうしたら、とても喜ばれて。旅の思い出の味として自分用に持ち帰ってもいいと思いますし、お土産にもおすすめです!」。複数の品種を手軽に食べ比べできるのもうれしいポイントだ。

写真は大丸百貨店をはじめ、札幌市内に3店舗展開する「千野米穀店」のギフトパッケージ。1個650円(税込)。
PROFILE
1981年、北海道岩見沢市生まれ。20才の時に東京NSCに入学。札幌よしもと所属。
子育て奮闘中のシンママ。食に関心が高く、食育インストラクターや野菜ソムリエJr.の資格を取得。日々のことやおいしいモノ、子育てサロンの活動などを綴ったブログを随時更新中。
「オジョーブログ」 https://ameblo.jp/nokino923