歴史と今が融合する商店街、狸小路が札幌を面白くする!
札幌の中心部、大通公園とすすきのの間にある巨大な商店街「狸小路商店街」。東西の総延長およそ900m、150年以上の歴史を誇るこの商店街は、市民にとっては日常、観光客にとっては非日常の人気スポットだ。そんな商店街の魅力やこれから、さらにはおすすめスポットを、仕掛け人の一人である増永隆道さんに聞いた。
Photo: Ryoichi Kawajiri / text: Masaki Narita

歩くだけで札幌の昔と今を実感する
明治初期から続く北海道最古の商店街のひとつ。
「狸小路」の歴史は北海道の開拓時代に遡る。明治新政府が札幌に北海道開拓使を置いたことをきっかけに、商家や飲食店が建ち始めた一角が次第に狸小路と呼ばれるようになったといい、その名の起源には、言葉巧みに誘う客引きをタヌキになぞらえたもの、かつてタヌキが生息していたからなど諸説ある。ちなみに正式な地名ではなく、中央区南2条と南3条の中間、西1丁目から西10丁目までが通称で狸小路と呼ばれている。

1丁目から7丁目まではアーケードで覆われているため、天候に左右されずショッピングが楽しめる。
老舗から新店、チェーン店までおよそ200軒の店舗が並ぶ狸小路は、普段使いのドラッグストアやコンビニ、ヘアサロンや衣料品などのファッション関係、和洋中からスイーツまで多彩な飲食店、ホテルやお土産店、映画館などのエンターテインメント施設までが混然と同居している。札幌のストリート文化を実感できる狸小路は、観光客にも人気のスポットだ。札幌で家業の不動産賃貸業を営む増永隆道さんのルーツはこの狸小路で、「曽祖父が福井県から北海道に入植して、1926 (大正15) 年に狸小路2丁目で眼鏡店を開業したのが始まりです」と語る。

札幌中心部でビルの再開発を手がける株式会社HBUの代表取締役・増永隆道さん。
曽祖父から100年続く縁がある狸小路に
改めて光を当てた「空き地」という場所。
狸小路5丁目に移転して営んでいた眼鏡店が火事で全焼したことを機に、増永さんの祖父は周りの地権者を巻き込んで不動産賃貸業を始めた。店舗の跡地に建てたビルは、日本中央競馬会(JRA)のWINS札幌B館として長く営業を続けてきたが、賃貸契約の終了により2021年6月末に閉館となり、ビルは解体されて更地となった。
ところが。そのビルとビルの間にぽっかりと空いた土地に思いがけない空間が現れて市民をあっと驚かせた。人工芝が敷かれ、イスやクッションが置かれたのは2023年7月のこと。営業中は出入り自由のオープンな空間は、見たままの「空き地」と名付けられた。入場無料で誰もが思い思いに過ごせる空き地は、都会の新たなコミュニケーションスペースとして大きな話題となっている。

取材時の「空き地」の狸小路側入り口。冬季限定のこたつスペースではおでんとクラフトビールが楽しめる。
このような場所は、次のビルが建つまでコインパーキングなどに利用するのが定番だ。しかし、増永さんはあえてフリースペースにこだわった。「札幌の中心部に余白を作りたかったんです。興味を持ってくれる人が集まれば、絶対に楽しい空間になると思って」。空き地には市民はもちろん観光客もこぞって訪れ、文化的なイベントも多数開催された。コンテナや屋台がある一角はフードストアのポップアップの場になった。「2年間でクリエイティブなチャレンジができたおかげで、次の展開につながりました」。
感度の高いスポットを作ることで、
その影響を狸小路や市内に波及させたい。
増永さんが語る「次の展開」とは、空き地に新しく建つビルのことだ。「地下1階、地上5階建てのビルの3階部分に『空き地』を作る予定です」。なんと、3階の壁を半分ほど取り払って「屋根のある空き地」にするというのだ。空き地のコンセプトを面白がってくれた飲食店やホテル事業者が参加して、狸小路に新しいランドマークが生まれるのは2028年の夏頃の予定。

今の空き地にあるものや実施してきたことを、新しいビルでも継続していくという。
商店街の真ん中の5丁目に感度の高い人が集まるスポットを作ることで、その影響を狸小路全体、そして札幌市内に波及させたいというのが増永さんの考えだ。そこには、2018年に家業を継ぐために戻ってきた札幌の街並みに抱いた違和感があった。「東京でも見覚えがある、特徴のないまちになったという印象でした。狸小路でも、子どもの頃に通っていた店が無くなってしまってガッカリしました」。

この場所に建つ新しいビルで、大手デベロッパーがやらないような「面白い!」を仕掛けたいと語る増永さん。
「市民にとって面白みのないまちが観光客に求められるはずがありません。札幌の重心を狸小路に戻して、オリジナリティのあるまちづくりに関わっていければ」。そう語る増永さんが注目する狸小路の西側には、超巨大なのれんが目印の居酒屋「酒と銀シャリ せいす」や、昭和の田舎の町中華をイメージした「ニュー花園」など、個人経営のユニークな店舗が増えている。「夜にゆっくり食事とお酒を楽しめるエリアです。観光で訪れた方にもぜひ足を運んでいただきたいですね」。狸小路から札幌のリノベーションを目指す増永さんに、観光客にもおすすめのお店を紹介してもらった。

狸小路の西側にある7丁目。レトロな雰囲気が漂う中に個性豊かな店舗が集まる。
札幌の旅を心から楽しむなら
地元の面白い人たちが集まる店で。
狸小路6丁目のアーケードから横道へ抜けるところにある「狸小路市場」は、増永さんのイチオシスポットだ。「子どもの頃から祖母に連れられて買い物に行っていた魚屋さんは、新鮮でとにかく美味しいです」。その〈下倉孝商店〉は地方発送もしてくれるので、旬を知り尽くしたスタッフに相談するといい。ちなみに、向かいにある〈すしの下倉〉はここの直営店で、新鮮なネタがリーズナブルに味わえる。
狸小路7丁目を西側から出て南に行ったところにある「M'sビルヂング」にも、増永さんの馴染みの店がある。「2階にある〈食堂 ブランコ〉は、仕事で夜遅くなっても美味しいイタリアンが食べられるのでよく行きます。1階の〈FORK〉も、店主の中嶋さんの人柄に魅せられたクリエイティブな人たちが夜な夜な集まるので、料理と雰囲気の両方から刺激を受けられますね」。

〈食堂 ブランコ〉と〈FORK〉が入居するM'sビルヂング。他にも気になる店が多いグルメビルだ。
増永さんが最後に挙げてくれたのは、M'sビルヂングの隣で、2月1日から期間限定出店している〈Hobo Beer Stand〉。特定の醸造所を持たないファントムスタイルでクラフトビールづくりを行う「Hobo Brewing」のビアスタンドだ。「僕にとってリラックスできる大事な場所です。空き地で使っていた什器もうまく使ってもらっています」。狸小路から札幌を楽しくしたい増永さんのおすすめの店、ぜひ訪れて楽しんでいただきたい。

3カ間の期間限定で週末だけ営業する〈Hobo Beer Stand〉がある、1階がモスグリーンのレトロな建物。
増永さんがおすすめするお店4選
下倉孝商店/すしの下倉
住所:札幌市中央区南3条西6丁目(狸小路6丁目狸小路市場)
TEL:011-231-4945
営業時間:10:30~18:00(下倉孝商店)、11:30~20:00(すしの下倉)
http://www.shimokura.jp/
食堂 ブランコ
住所:札幌市中央区南3条西7丁目7-28 M’sビルヂング2F
TEL:011-206-9777
営業時間:18:00~1:00
https://www.instagram.com/shokudo_blanco/
FORK
住所:札幌市中央区南3条西7丁目7-28 M’sビルヂング1F
TEL:011-212-1571
営業時間:18:00~0:00
https://www.instagram.com/forkt7/
Hobo Beer Stand
住所:札幌市中央区南3条西7丁目7-26
https://www.instagram.com/hobo_brewing/
PROFILE
増永 隆道(株式会社HBU代表取締役)
ますなが・たかみち/1981年札幌生まれ。日本を代表するブランドコンサルティング・ファーム「SIMONE INC.」で執行役員を務めた後、2018年に札幌で不動産賃貸業を営む家業を継ぎ、妻子が暮らす東京と札幌の2拠点生活を送る。フリースペース「空き地」のオーナーとして各種メディアに取り上げられた。
https://www.instagram.com/takomichi/?hl=ja
