さっぽろ散歩
2025.01.17

雪とアートのコラボを楽しむ!冬の札幌アート散歩に出かけよう

冬の札幌で「雪×アート」というと「さっぽろ雪まつり」をイメージする人も多いはず。だが、市内には雪とアートが融合するスポットが他にもあることをご存知だろうか?白く染まる札幌の公園と野外美術館で、冬にしか味わえないアート体験を楽しむウォーキングをご紹介しよう。

Photo: Ryoichi Kawajiri / text: Masaki Narita

円山公園に現れる可愛い雪像は、
「雪遊びしてみよう」から始まった。

市営地下鉄東西線・円山公園駅からほど近い円山公園で、近年話題なのが「雪のバンクシー」。公園内のベンチには手足の長い雪だるまが座り、葉を落とした木々の幹には雪でできた動物の姿が。どれも突如として現れるが、覆面作家のバンクシーと違ってこちらの作者は正体不明ではない。作品はすべて、公園・施設の案内サインや各種パンフレットなどのデザイナーとして活躍する田中宏美さんが手掛けたものだ。

円山公園を楽しくする雪アート作品の作者、田中宏美さん。

田中さんが雪の作品を作り始めたのは2019年のこと。仕事の息抜きに自宅近くの小さな公園を散策していたところ、あるシーンが頭に浮かんだ。「ここで雪だるまが遊んでいたら楽しいと思って、手足のついた雪の男の子をベンチに座らせてみたんです」。田中さんは、人間のように帽子とマフラーも身につけた「雪ボーイ」を主人公に、雪に覆われた冬の公園で繰り広げられるストーリーを想像しながら次々と作品にしていった。

雪ボーイの隣にいるのは、友達の「バケツ太郎」。

優雅なティータイムを楽しむ雪ボーイ。

ランタンでライトアップされた雪ボーイ。

「雪遊びしてみよう」と個人的な趣味として作り始めた雪ボーイは、すぐに近所で噂になった。「子どもたちが一緒に遊んで壊してしまったり、それを直してくれる人が現れたり、雪ボーイを通してつながりが生まれました」と田中さん。制作を始めて3年目、もっと広い円山公園に舞台を移し、木に登るエゾリスも作るようになった。それからはクマの親子やウサギ、ネコ、コアラ、ヘビなど、雪の動物たちが次々と登場していく。

木の幹をよじのぼろうとしている雪ぐまの親子。

雪を丸めて葉と赤い実で作る一般的な雪うさぎとは違うリアルなフォルム。

雪コアラの親子。鼻は松ぼっくりで表現している。

取材日の夕方に制作された雪にゃんこ。幹をまたぐダイナミックな造形も田中さんならでは。

自分が楽しんで作る作品だから、
みんなも喜んでくれる。

制作に使う道具は自宅からソリで運ぶ。裏地付きのゴム手袋をはめて、周辺から集めた雪を木の幹に押し固めるところからスタート。おおまかな形を作ったあとは、写真を参考にしながら細かい部分を粘土用のヘラで削っていく。木の実や樹皮、松ぼっくりなどで顔のパーツをくっつけて完成だ。何か作ってほしいとリクエストすると「エゾリスだったら数え切れないほど作っていますから、すぐにできますよ」とのこと。

市民や観光客が集まる円山公園が雪アートのキャンバス。

細かいところを仕上げるためのヘラやハケは必需品だ。

作品作りにはその日の雪質も大きく影響するという。

「仕事終わりからの作業なので、夜中にこっそり作っているみたいに思われがちで」と笑う田中さん。見る見るうちに出来上がっていく雪のエゾリスを、通りかかった外国人観光客が興味津々で眺めている。作品の評判を聞きつけた円山動物園に依頼され、雪まつり時期に合わせて実施されるイベントの一環として、園内にリスの雪像を作る「雪リスを探そう!」にも2023年から参加している。

慣れた手つきでエゾリスの形に仕上げていく。

およそ10分弱ほどの時間で作品の出来上がり。

出来たばかりの雪のエゾリスは観光客にも大人気。

田中さんは、雪の季節以外にも公園内の落ち葉で地面に模様や動物たちを描いている。その原動力を問うと「デザインの仕事で依頼されるクライアントワークも好きですが、やっぱり自分が作りたいものを作るのは一番のリフレッシュになります」。自分が心から楽しんで作るものだからこそ、みんなが楽しんでくれる。この冬も、公園を訪れる人々を喜ばせてくれるような作品が次々と生まれることだろう。

ホウキで落ち葉を集めて作られた流星群。

針葉樹の落ち葉を使ってエゾリスの毛並みまで表現。

「今後はもっと抽象的な作品にもチャレンジしたい」と語る田中さん。

田中さんの作品はこちらもチェック!
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雪に埋もれた野外美術館の作品群に、
伝統の輪かんじきで会いにいく。

札幌の「雪×アート」で外せないのが、市内中心部から車で約40分の場所にある「札幌芸術の森」。起伏に富んだ自然の中に74点もの彫刻作品が展示されている野外美術館は、基本的に冬は閉園となる。だが、雪の中の散策が楽しめる「芸森かんじきウォーク」が開催されているということで、管理課の川瀬令衣さんに話を伺った。

愛媛出身の川瀬令衣さん。札幌を訪れるならやっぱり冬がおすすめとのこと。

かんじきウォークで使われるのは西洋式のスノーシューではなく、伝統的な輪かんじき。「道内に昔ながらのかんじきを作れる方がいて、30年以上前にまとめて作っていただいたそうです。もはや手に入らない貴重なものですね」と川瀬さん。芸術の森センター1階の事務室で受付をしたら、受け取ったかんじきを装着! 履き方にはコツがいるが、センターのロビーにある動画と資料を見ながら挑戦してみよう。

かんじきのレンタル料は500円。長靴も用意されているが、サイズや数に限りあり。

子ども用のかんじきはプラスチック製で、貸し出しは無料。

縄をしっかり締めないと途中で脱げてしまうことも。心配ならスタッフにレクチャーしてもらうと安心だ。

作品の配置などの情報が書かれた「芸森かんじきウォークパンフレット」を手にいざ出発。立ち入り禁止エリア以外はどこを歩いてもOKとのことだ。野外美術館のほとんどは雪に覆われた状態で、誰も足を踏み入れていない雪原に分け入るのはとても楽しい。

わかりやすいイラストマップ付きパンフレット。冬季はシートで保護されて見られない作品についてもきちんと案内されている。

軽くて歩きやすい輪かんじき。これだけでも価値がある貴重な体験だ。

一面の銀世界で際立つ作品の個性と主張を、
静寂の中で味わう冬だけのひととき。

野外美術館の作品は、作家が実際にここを訪れ、地形や周囲の状況、気候などを踏まえた上で制作されたものばかりだ。川瀬さんは「当然、冬には雪がたっぷり積もります。その時季に作品がどう見えるのかも計算して制作されていると思います」と語る。雪がしんしんと降るグレーの世界に映えたり、晴れた冬の太陽の光で輝いたり、作品たちは天候や時間帯によってさまざまな顔を見せてくれる。

《異・空間》内田晴之 という題名がさらに印象深くなる佇まいに。

大きな石に鉄の板が寄りかかった《挑発しあう形》土屋武 。

森に暮らす動物の足跡が見つかることも。

真っ白な雪とのコントラストで、作品がより鮮明に見えることに驚く。積雪が多くなると作品の一部だけが見える状態になるため、夏場とはまったく違う目線が生まれる。雪が音を吸収するため、静謐な空気の中で作品と向き合うこともできる。これも冬ならではの野外美術館の楽しみ方だ。

奥の《雲の牧場》新宮晋 という作品もまさに雲の上にあるよう。

その名も《ウレシクテ アノヨト コノヨヲ イキキスル》最上壽之 。

《走向世界》田金鐸 。作品によってそれぞれ違う雪の積もりかたも趣深い。

期間中には、「ねんどくんと一緒にまつぼっくりを探せ!」というミニゲームも実施。広い野外美術館内に隠された松ぼっくりを探して集めると、参加賞がプレゼントされる。「ミニゲームと合わせて、かんじきウォークをより楽しんでいただければ」と川瀬さん。しっかり防寒対策をして、冬だけのアート散歩に出かけてみよう。

「ねんどくん」は野外美術館のキャラクター。

「毎年参加する人も多い魅力的な催しなので、ぜひ一度体験してください」と語る川瀬さん。

Information

円山公園
場所:北海道札幌市中央区宮ヶ丘3
https://maruyamapark.jp/

芸森かんじきウォーク2025
会期:2025年1月11日(土)~3月16日(日)※予定
時間:9:45~15:30(受付は15:00まで)
休館:月曜(月曜日が祝日の場合は翌火曜)
会場:札幌芸術の森野外美術館(北海道札幌市南区芸術の森2丁目75)
料金:大人用かんじき貸出500円、小学生以下無料
https://artpark.or.jp/