アート札幌
2024.02.07

札幌の街をアートが彩る1カ月。アートディレクターのワビサビさんに聞く、札幌国際芸術祭2024の魅力とは?

現在開催中の「札幌国際芸術祭2024(略称:SIAF2024)」は、札幌市内の主要6会場を中心に1カ月近くにわたって展開される。3年に一度のアートの祭典だが、コロナ禍をはさんでなんと今回は6年半ぶりの開催。その魅力を、アートディレクターで札幌を拠点に活動するデザインユニット「ワビサビ」の工藤ワビ良平さんに聞いた。

Text:Tamaki Sugaya / Photo:Yoshitaka Morisawa

3年に1度の芸術祭が6年半ぶりに帰ってきた!

2014年に第1回の開催となった札幌国際芸術祭。コロナ禍にあって2020年は中止となり、6年半ぶり、初の冬開催となった。今回の大きなテーマは「LAST SNOW」サブテーマは「はじまりの雪」。市内6つの会場で、「200年の旅」と「未来の冬の実験区」というストーリーに分かれて展示が行われている。「見るだけでなく、来場者の方々に体験してもらうような仕掛けにもなっています」と話すのは、2020年に引き続き、今回もアートディレクターを務めたワビサビの1人、工藤ワビ良平さん。今回は全体のアートディレクションに加え、「200年の旅」をテーマに展開する「未来劇場」で、雪の結晶にまつわる展示室のインフォグラフィーを担当した。

ワビサビが担当した展示室「LAST SNOW」。正面はポスターのメインビジュアルにもなった雪の結晶。

中谷博士の研究成果や北海道大学低温科学研究所で使われていた研究機材も展示。

「未来劇場の終盤にこの展示室があります。今回の芸術祭のテーマを振り返ってもらい、この美しい雪の結晶を未来に繋げようという展⽰です」と工藤さん。展示室には、実際の雪の結晶を世界で初めてつくり出すことに成功した物理学者・中谷宇吉郎博士の研究を中心に、雪とは何か、雪を通して見る札幌という都市のあり方、そして中谷博士が築き上げた北海道大学低温科学研究所の先端研究についても紹介している。

札幌国際芸術祭2024のポスター。ワビサビがデザインを手がけた。

「雪の結晶って、一つひとつ形が違うんですよ。今朝、降っていた雪だって全部違うんだから、すごいことですよね」と工藤さんは少年のように目を輝かせる。

その日の気温や湿度などによって、雪の結晶はさまざまに形作られる。まさに一つひとつが芸術作品のようだ。その神秘性にインスパイアされ、ワビサビはポスターのメインビジュアルに雪の結晶を用いた。「これは僕たちがデザインした雪の結晶ですが、北海道大学低温科学研究所の古川義純先生に監修していただいて、実現可能な結晶を構築しています。かっこよさだけでなく、実現し得るものにしたかったんです」。中央の六角形は、札幌市の市章を思わせる。

アーティストだけじゃなく、市民のお祭りとしての芸術祭

「札幌国際芸術祭が素敵だなと思う点は、どうしたら市⺠のみなさんが楽しめるだろう?ということをすごく大切に考えられているという点です」と工藤さん。もちろん、世界中から一流のアーティストを招待し、普段はなかなかお目にかかれない作品が公開されているが、決してハードルは高くないという。「ずいぶん昔、パリのルーブル美術館に行ったとき、地元の小学生がたくさん来ていることに驚きました。小さなうちから本物の芸術にふれて、気に入った作品の前で絵を描いたりしてるんです。そういうのが大事だなって」。

「決してハードルを高くせず、市民のための芸術祭にする」。工藤さんは、そんな札幌国際芸術祭の姿勢にも共鳴しているという。

子どもから大人まで、広く一般の人々に開かれた芸術祭。「それを象徴するのが、今回、コミュニケーターとして活躍している○(まる)さんだと思います」と工藤さんが示すのは、ポスターにも描かれている人型のイラスト「○さん」だ。「これは誰かを意味する○○さんから来ている○さん。アーティストの小川絵美子さんが描いたのですが、今回、すべての会場で重要な役割を果たしています」。
○さんもまた、雪の結晶と同じように1⼈として同じ顔は存在しない。「雪の使者のようにも⾒えるでしょ。あ、絵美⼦さんに怒られそう」と⼯藤さんは笑う。会場では、作品とは別でこの○さんのこともぜひ探しながら⾒て回ってほしい。

圧巻の芸術作品を間近で感じられる

ドイツ・ベルリンを拠点に活躍するジョヴァンニ・ベッティ氏とカタリーナ・フレック氏の作品「Invisible Mountain」

韓国・ソウル生まれのアーティスト、チェ・ウラム氏の「素敵に枯れていきたい、君と。」(手前)、「穴の守護者」(奥)

世界的に活躍するアーティストの作品がすぐ間近で見られるのが、札幌国際芸術祭2024の魅力だ。空間そのものを使って表現する作品や、時間で様相を変えるアートなど、展示に没入して楽しめる。特にミュージカルで使われていたステージや奈落などを展示に活用する未来劇場[東1丁目劇場施設]では、場の特性を生かした演出が面白い。工藤さんのお気に入りはチェ・ウラム氏の「Red」。客席の真ん中に展示された作品は、ステージの上から見ることになる。「ステージから作品を見ている人を、客席から見るのがまた面白いんですよ」と工藤さん。芸術鑑賞の新しい視点にも気づかせてくれる、そんな展示が目白押しだ。

チェ・ウラム氏の「Red」

観客はステージ上から作品を眺める。

「雪の季節に開催する札幌国際芸術祭2024に、ぜひ足を運んでいただきたいですね。素晴らしい作品を多くの方に見てもらいたいし、この季節の札幌も体感して欲しい。特に北海道で活動するアーティストの作品は、どれも奥底に土地を感じさせるものがあります」。
札幌国際芸術祭2024は、未来劇場[東1丁目劇場施設]をはじめ、北海道立近代美術館、札幌芸術の森美術館、札幌文化芸術交流センター SCARTS、モエレ沼公園、そしてさっぽろ雪まつり大通2丁目会場と、主要6会場を中心に来場者を芸術の世界へと引き込んでいる。

INFORMATION

札幌国際芸術祭2024(SIAF2024)
会期:2024年1月20日〜2月25日
※札幌芸術の森美術館の会期は2023年12月16日(土)~2024年3月3日(日)
※さっぽろ雪まつり大通2丁目会場の会期は2024年2月4日(日)~2月11日(日祝)

公式サイト:https://2024.siaf.jp/
 
ワビサビ
工藤ワビ良平と中西サビ一志からなるデザインユニット。1999年から活動し、世界的なデザイン賞も数々受賞。札幌を拠点に活躍。

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