さっぽろ散歩
2023.11.20

酒と肴と人情と、ほどよいゆるさが心地いい。札幌のまちで、風情ある2つの老舗横丁を訪ねた。

北日本随一の歓楽街「すすきの」を擁する札幌は、呑べえたちが憧れる地。数え切れないほどの飲食店が軒を連ねるすすきの界隈で、はしご酒を楽しむなら、横丁巡りなんてどうだろう。
“一見さん”には敷居が高い? いえいえ、そんなことはありません。人情味あふれる老舗横丁、〈すすきの0(ゼロ)番地〉と〈狸小路市場〉へ、ご案内しよう。

photo: Yoshitaka Morisawa / text: Tamaki Sugaya

まさかの門限厳守!「すすきの0番地」

すすきの市場が店じまいをする頃、〈すすきの0番地〉の地下飲食店にポツポツと灯りが点る

ディープなすすきのを体感するなら、まずは〈すすきの0番地〉へ。地下鉄すすきの駅から徒歩約3分、1階に〈すすきの市場〉が入る古いビルの階段を下りていくと、そこは紫色や黄色のネオン看板に彩られる昭和レトロな世界。まるでタイムスリップしたような気分に、心が躍る。

1922(大正11)年に設置された札幌第二公設廉売市場を前身とし、昭和40年代に地下1階に〈すすきの0番地飲食店街〉が誕生した。現在、31の飲食店が軒を連ねる。入居する7割がスナックで、なかには50年以上営業を続ける古株も少なくない。1人のママが長きにわたって暖簾を守るスナックもあれば、代替わりしながら3代目のママがカウンターに入る店も。ほかにも居酒屋、小料理屋、バー、イタリアン、日本酒バーなどバラエティが豊かだ。

〈すすきの0番地地下飲食業協同組合〉の理事長を務める成澤章さん

「ここの一番のよさは、何といっても安全・安心なところです」。そう話すのは、〈すすきの0番地地下飲食業協同組合〉の理事長・成澤章さん。自身も〈Bar あきら House〉を営む。「ほとんどが店主1人で切り盛りする小さな店ですが、女性1人でも安心してお酒を楽しむことができるんですよ」と笑顔を見せる成澤さん。その言葉通り、この横丁の安全・安心を守るのには、いくつもの決まりごとがあるという。「入居するには組合理事による面接があります。組合のルールをきちんと守れる人かどうか、0番地に合った業態かどうかも見させてもらい、必ず組合員になっていただきます」。地下での営業ということもあり、煙が出る炭火焼きの店や匂いのきついラーメンやカレーの店も営業できない。店舗が営業している間は、守衛が常駐し、酔客同士のトラブル防止にも気を配る。さらに驚くのは門限があることだ。「午前2時50分までに店仕舞いをして、店主は午前3時までに守衛室で時刻を記入して退店する決まりがあります」と成澤さん。午前3時には地下への扉が施錠される。「深酒してもいいことはありません。楽しく飲んで帰るのに十分な時間です」と成澤さんは門限の根拠を示す。

理事長の成澤さんの店〈Bar あきら House〉

老舗の横丁らしく、20年以上営業している店が半分を超えるが、最近では新しい店もちらほら。客層は10代から90代と幅広い。「すすきのには、新しいビルもできていますが、昔からある0番地のような場所もいいものです。この空気感は、長くやっていないと出せませんから」。笑顔の優しい成澤さんが、「安全・安心」と太鼓判を押す〈すすきの0番地地下飲食店街〉から、おすすめの2店舗を紹介しよう。

オステリア ルマーカ

2018年にオープンした〈オステリア ルマーカ〉は、0番地唯一のイタリアン。オーナーシェフの奥村元揮さんは、「1人で店をやるにはちょうどいい広さで、ビルの雰囲気も気に入りました」と、入居の動機を話す。カウンター3席とテーブル6席の店内で、北海道や日本各地、海外から取り寄せる厳選食材を使い、イタリアの素朴な家庭料理を再現。丁寧に仕上げる料理を、ナチュールワイン(1杯1,000円〜)とともに味わうことができる。「お客様の6割は男性で、出張で札幌を訪れる方も多いですよ」と奥村さん。いろいろ食べたい一人客のために、ハーフサイズのリクエストにも応える。料理のおまかせは5,500円〜。「0番地に美食あり」と言わしめる1軒だ。

「蝦夷鹿肩肉のビステッカ」2750円。表面に焼き色を付けた後、オーブンに2度入れて火を通し、やわらかく仕上げる。カポナータを添えて。

「一度、0番地に来てください」。寡黙ながらも眼差しがやさしい奥村さん。

グループ客は最大6人まで。3人以上で来店の際は、事前に席の予約がベター。

INFORMATION

オステリア ルマーカ
札幌市中央区南6条西4丁目 すすきの0番地地下1階
TEL:080-7792-9645
営業時間:17:30〜23:58
定休日:日曜・祝日

おばんざい酒場 呑み亭

店主の塚原隆さんは、札幌市内のホテルで総料理長を務め上げた腕の確かな料理人。定年退職を機に〈おばんざい酒場 呑み亭〉を開業した。「これからは、1人で好きなことをやろうと思ってね」と塚原さん。「うちはわがままな店だから」とお品書きは置かず、客の予算と空腹具合に応じて、その日のおすすめを出す。料理の予算は3,000〜4,000円もあれば十分だ。もともとはフレンチで腕を振るってきた塚原さんだが、おばんざいの店は和食が中心。ホテル時代の後輩たちにも試食してもらい、酒に合うおばんざい料理や中華も極めた。「愛情込めて作る料理をお出しします。わがままな店でよければ(笑)、ぜひ来てください」。茶目っ気たっぷりの塚原さんを慕って、カウンターは連日満席だ。

和洋折衷、さまざまな料理が次々と目の前に。一品一品、手が込んでいる。「トマトの白ワイン漬け」はリピート必至の看板メニュー。

テーブル席は半個室。常連客がキープするボトルが並ぶ。

ふらりと暖簾をくぐるのも粋だが、人気店につき予約がおすすめ。

INFORMATION

おばんざい酒場 呑み亭
札幌市中央区南6条西4丁目 すすきの0番地地下1階
TEL:011-521-5300
営業時間:17:00〜LO21:00
定休日:日曜・祝日

観光客でにぎわう狸小路の穴場〈狸小路市場〉

狸小路6丁目の一角に位置する〈狸小路市場〉

北海道で最も古い商店街の一つ、〈狸小路商店街〉。札幌の中心部、大通公園とすすきののちょうど真ん中辺りに位置し、東西約900mに渡って続く。開拓時代から形成されてきた商店街で、現在も観光客や地元客でにぎわう。そんな商店街(6丁目)を脇道に逸れると、〈狸小路市場〉が出現。外の雰囲気とは異なりどこか落ち着いた雰囲気で、現在、鮮魚店、精肉店、成果店が各1店舗に、13店舗の飲食店が暖簾を掲げる。ここもまた、札幌の名物横丁の一つ。足を踏み入れてみれば、狸小路の新しい楽しみ方が見つかるかもしれない。

じんぎすかん屋 みやした商店

〈狸小路市場〉で40年以上続く精肉店が、16年ほど前に開いたジンギスカン専門店。1頭から最大でも600gしか取れないラムの肩ロース肉だけを厳選して使うのは、精肉店の直営だから成せること。「肉の表と裏に焼き色が付くくらいで召し上がるのが、一番ラム肉らしいおいしさを堪能できます」と、話すのは精肉店の2代目も務める店主の宮下明博さん。カウンターに座れば、宮下さんが焼き加減を見極めてくれる。自家製のタレは、醤油をベースにリンゴやオレンジににんにくを利かせる。ジンギスカン鍋で焼いたラム肉にタレを付け、生ビールと一緒に味わうのが醍醐味だ。席に着いたら、まずは3,000円の基本セットを注文。まだまだいけるなら、追加で1皿1,400円〜ラム肉をオーダーしよう。

ひと組ずつジンギスカン鍋で焼きながら味わう。

カウンターの奥には、個室が2つ。グループでの利用に。

INFORMATION

じんぎすかん屋 みやした商店
札幌市中央区南3条西6丁目狸小路市場内
TEL:011-221-5208
営業時間:17:00〜LO23:00
定休日:日曜

立喰お寿し 祭寿司

商店街側から〈狸小路市場〉に入ってすぐ、「お気軽にどうぞ」と書かれた提灯が揺れる〈立喰お寿し 祭寿司〉。 6人も入ればいっぱいになる店内は、大将が1人で切り盛りする。ショーケースの中をのぞきながら品定めするもよし、木札のお品書きを見て注文するもよし。瓶ビールや日本酒、ワインを飲みながら、サクッと粋に寿司をつまめる。地元客や出張の会社員など常連も多く、会食の前に1人で刺し身をつまみに一杯やるのがルーティンという馴染みの客も。混めば冷蔵庫の近くに立つ客が、飲み物担当になるというアットホームな雰囲気もいい。札幌に来たら、まずはここで軽く飲みつつ旬の魚を確かめてから、街に繰り出すのもいいだろう。

旬のネタをお好みで(1カン200円〜)。料金はすべて店内に表示されているので、明瞭会計。

その日のネタが店の前に。店内はこぢんまりとしているが、入りやすい雰囲気。

INFORMATION

立喰お寿し 祭寿司
札幌市中央区南3条西6丁目狸小路市場内
TEL:011-207-4010
営業時間:16:00〜21:00
定休日:土〜月曜

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