道民から観光客まで愛される、ご当地コンビニ・セイコーマート「スゴいのヒミツ」を深掘り! ―赤尾洋昭社長に聞く―
ご当地コンビニ「セイコーマート」。札幌発祥で、市内に約330店舗を展開しているが、北海道で見ても、なんと人口カバー率99.9%という驚異的な出店状況。自前の物流によって毛細血管のように張り巡らされたネットワークは、全道民のライフラインのように機能しているといえる。赤尾洋昭社長のインタビューを通して、独自性を貫くセコマのスゴさを深堀りした。
Photo: Akiko Tsuda / Text: Aiko Ichida
セコマの魅力、6つの「コレはスゴい!」
セイコーマートは「道民の日常」に徹底的に寄り添っているコンビニだ。店舗によっては独自に地域の特産品を販売したり、お土産コーナーを設置するなど、「北海道に行ったら、コンビニはセイコーマート一択」という旅人や出張族も少なくないはず。そこでまずはセイコーマートの魅力を再確認すべく、大手コンビニチェーンとは一線を画す、6つのポイントを紹介しよう。
①店内調理で温かい味を提供「HOT CHEF(ホットシェフ)」
北海道旅行に来たら、真っ先にここを目指す人もいるはず。
1994年に誕生したホットシェフは、今やセイコーマートらしさを象徴する“顔”的な存在だ。店内調理で提供される大きなおにぎりや温かいカツ丼やフライドチキンなどが人気の「ホットシェフ」は昼時になると行列ができるほど。「作り立てのおいしさを届けたい」という思いを追求した結果、ご飯を炊く、揚げる、焼くなどの火入れや盛り付けも、すべて専属の調理スタッフが店内のキッチンで行う。ちなみにセイコーマートの全販売商品の中で売上高1位となっているのはホットシェフのカツ丼。さらに販売数量が最も多いのも同じくホットシェフのフライドチキンだ。もはや北海道グルメとして確固たるポジションを築いたホットシェフの“作り立ての味”。旅の一食に加えてみてはいかがだろうか。
※HOT CHEF、HOT CHEFベーカリー共に店舗により取扱いの無い場合があります。セイコーマートHPにて検索できます。
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②安くておいしいお惣菜がいっぱい
一人暮らしにもありがたいお惣菜が充実。
たくさんの惣菜が、お手頃価格で並んでいるのもセイコーマートならでは。野菜、魚、肉など原材料の調達から製造、物流を自前で行うことで、高品質&高コスパの惣菜づくりを実現している。たとえば野菜なら、そのほとんどを自社農場や契約農家、農協から直接仕入れし、新鮮な野菜を安定的な量で調達。出所がはっきりした野菜を使う惣菜と知れば、安心感も大きい。
ちなみに価格は120〜200円前後。道民にとっては毎日の食卓に足りない栄養をちょっとプラスしたり、「いろいろな種類を食べたい」を叶えてくれる強い味方だ。セイコーマートのおいしい惣菜をアテに、ホテルでちょい飲みもおすすめ。
③北海道の原料を使ったオリジナル商品が充実
セコマグループ工場で作られる北海道メロンソフト。
セコマでは北海道の豊かな資源と良質な素材、それらを使った魅力あふれる商品を開発し、発信している。中でも道北の豊富町で生産された牛乳を使用したアイスやのむヨーグルトなどの乳製品はバリエーションが豊富。定番の「Secoma北海道牛乳ソフト」や赤肉メロン果汁を使用した「Secoma北海道メロンソフト」のほか、和ハッカの「Secomaチョコミントアイスバー」など期間限定の商品を含めてさまざまなフレーバーが登場するアイスは人気商品になっている。
また、道産の山わさびを使った「Secoma山わさび塩ラーメン改」は辛いもの好きも思わずむせるほど、刺激的な辛さが特長で、お土産としても大人気。道内各地にグループ会社や工場を持ち、地域と強いつながりを築いているセコマだからこそできる商品開発によって、次々と新しい商品を生み出している。
④お酒の品揃えが豊富
北海道産の原料を使用したオリジナルサワーやコスパ満点の直輸入のワインが充実。
地場の酒販店の経営近代化を目的に、コンビニチェーンとしてスタートした歴史を持つセコマ。その出自にあるように、酒類販売はお手のもの。特に1987年から自社で輸入を始めたワインの品揃えには定評があり、店頭に並ぶ9割以上のワインを自社で輸入している。ゆえにG7シリーズをはじめ、コスパの高いおいしいワインが揃っていることを知る地元民の中には「宅飲みのワインはセイコーマートで調達」派も多い。また、貴重な滝上町産和ミントを使用したミントクラフトジンハイボールなど、北海道の原材料を使った酎ハイやハイボールも。セイコーマートに立ち寄った際にはぜひお酒売り場もチェックしてほしい。
⑤肉や魚、生鮮品も販売
店舗によって品揃えに違いはあるが、生鮮が並ぶのは嬉しい限り。
セイコーマートにはいわゆる“出来合い”の商品以外に、調理を前提とした食材も多く並んでいる。卵、牛乳、豆腐などの日配品が充実しているほか、自社農場で生産された野菜や自社工場で製造する冷凍食品、冷凍肉や魚など、まるで食品スーパーのような品ぞろえの店舗も。
⑥HOT CHEFベーカリー
HOT CHEF専任スタッフがお店で焼いたパンを並べている(取扱いの無い店舗があります)。
セイコーマートの一部店舗には、なんとパンまで焼いて提供しているHOT CHEFベーカリーがある。中でも人気は「メロンパン」。ザクザクしたクッキー生地と、ふわふわのパン生地の食感が絶妙で、口いっぱいに広がる甘さが好評だ。ほかにもジューシーな角切りりんごソースがたっぷり入った「ご褒美アップルパイ」や、懐かしい給食風の「揚げパン」などの数量限定品も時々登場。店舗によってラインナップは異なるが、たくさんの焼き立てパンが並ぶ店舗のひとつ「セイコーマート南9条店」。すすきの・中島公園エリアのホテルからもほど近いので、店内で販売している淹れたてのコーヒーと共に、部屋でゆっくり朝食というのもアリ。
目指すは「地域になくてはならない存在」
1号店の写真。すでに「コンビニエンス ストア」の文字が見られる。
現社長・赤尾洋昭さんの父である昭彦さん(セイコーマート創業者)がコンビニを札幌にオープンさせたのは、1971年のこと。セブンイレブンの日本上陸より実は3年も早かったのだ。とはいえ、巨大な資本をもつ大手は目まぐるしいスピードで成長を遂げた。追随すべく、全国各地に数えきれないほどコンビニチェーンが生まれたが、昭彦さんは早い段階で大手のビジネスモデルを真似しても勝ち目はないと独自路線を貫いた。2012年に某経済番組に登場した時にはMCが「コンビニの概念や枠を超えている」とその経営姿勢を称えたという。
偉大な父の背中を見てきた赤尾社長が次に目指しているものとは…。その言葉にセコマのスゴさのヒミツが詰まっていた。
終始、柔和な表情で質問に答える赤尾洋昭社長。1976年、札幌市出身。一橋大学を卒業後、99年マツダ入社。2004年にセイコーマート(現セコマ)に入社し、専務取締役などを経て、20年2月現職に就任。
【以下、赤尾社長のインタビュー】
−店舗によってレイアウトや商品のラインナップが異なるなど、独自戦略によって特徴のあるコンビニを確立してきたセコマですが、まず、大手と圧倒的に違う点はどこにあると考えていますか?
私たちはアメリカのチェーンをモデルにコンビニ経営を始めました。今でもアメリカへの視察は続けていますが、向こうはまだコンビニチェーンがたくさんあって、それぞれが独自のサービスを展開しています。ほかのチェーンを真似た店舗経営を目指すという発想自体がないのかも知れません。
一方、日本国内に目を向けると1990年代、200以上はあったはずのコンビニチェーンが、現在はほぼ大手3社(セブンイレブン・ローソン・ファミリーマート)に集約されています。当時は新規参入も多く、そのほとんどが業界1位にどれだけ近づけるかというところに注力していました。あの頃は業界全体の売り上げも伸びていたので、立地のいい場所を確保して、トップの真似をすればそこそこの結果が出せていたんです。ところが店舗が増え競争が激しくなると、真似だけでは経営が成り立たなくなります。結果として残ったのは大手3社と当社含め数社になっていました。
ただ当時から当社よりも規模の大きい会社と同じことをやっていたのでは、飲み込まれてしまうということはよく理解していました。リソースが少ない中で、目指す形をどう実現するか、なるべく自分たちの力でやっていこうというマインドが企業体質として根付いていったのだと思います。
−今のセイコーマートを支える独自の取り組みについてお聞きします。
北海道における人口カバー率はなんと99.9%!道内に静脈のように行き渡っている。
1つは情報の管理ですね。実は昔、弊社のレジのソフトウエアの情報が他社に流出したことがあったんです。1970年代の終わり頃、セイコーマートではPOSシステムの会計の最後に「客層キー」を押すようにしていました。当時のシステムでは、男女別、子ども、その他というカテゴリで分け、それをマーケティングに活かしていたんです。ところが、そのシステムを管理していた会社が他社とも契約していて、セイコーマートのPOSシステムの考え方が他社に漏れて他でも使われるようになりました。この失敗から教訓を得て、戦略的なものはできるだけ内製化していこうと、ステップを踏んでやってきたことが独自路線につながったのだと思います。
現在のPOSシステムに通じるようなデータ収集を、大手に先駆けて進めていた。
−レジを使ったマーケティングはセイコーマートからだったんですね。話は変わりますが、札幌はもちろんのこと、北海道を訪れる観光客の中には、セイコーマートに行くのを楽しみにしている人も多いと思いますが、道外からのお客さんを意識して取り組んでいることはありますか?
強くは意識していないです。道外の人は北海道らしいローカルコンビニを求めて来られるわけですから、むしろ意識しちゃいけないと思っています。旅行者にフォーカスして商品開発をすると道外からわざわざセイコーマートに来る意味がなくなってしまいます。
−店内のレイアウトもいろいろ工夫されていますよね。一利用者としてすごく見やすい設計になっているなぁと感じます。
ありがとうございます。中にはまだ改善が必要なお店もありますが、棚は基本的に入口から店内を見通せるくらいの高さにしています。お客様にとってはお店が広く感じますし、店員にとってもお客様がどこにいるかわかりやすいので、なるべく棚は低めに、というのが最近の傾向です。今はスタッフの働きやすさもすごく大事にしているので、店舗デザインにしてもオペレーションにしても、常にそこは考慮しながら組み立てをしていますね。
店舗に入ると、全体を見渡しやすいように低く棚が設定されている店も多い。
−なるほど。セイコーマートにはオリジナル商品もたくさんあって、お土産として買っていく人も多いと思いますが、商品開発はどのように進めているのでしょうか?
一番は担当者が自分でお客様に食べていただきたいと思うもの、そして自分が食べたいと思うものを作ることです。自分が推したいものなら「絶対に売りたい」と思うでしょう(笑)? その次に原料ですね。北海道にはまだ知らない原料がいっぱいあるんです。
地方を歩いていると実はこんな食材が余っていますとか、この魚が獲れているけどあまり使われていないみたいな…そんな生産者の声に丁寧に耳を傾けます。なるべく地方を歩いて新しい原料が見つかったら、それを起点に商品開発をする。そこから発想を膨らませていく感じですね。
原料の素晴らしさやこだわり、コスト、量…なんでもいいから、何か強くアピールできる部分がなければいけない。だから開発担当者には、商品についてとことん語れるくらい愛情を持って向き合ってほしいと考えていますし、そういう商品がお客様に届くといいなと。
−セイコーマートにとって最も大切なことは何ですか。
弊社は自前の物流を持っているのが強みです。店舗はもっともっと増やしていきたいと思いつつも、シェアや売り上げにはまったくこだわっていません。今、関東の売り上げが伸びてきているので、北海道と同じように関東、特に茨城についてはまだお店を増やしていきたいと思っています。必要な場所に出店して、その地域で愛されて、なくてはならない存在になっていくことが重要です。
自社の物流網を持っているので、道内各所に出店できるという。
−最後に社長が自社の製品で一番好きなものを教えてください。
私は本当にいろいろ買っているんですけど…そうだなぁ、一番はホットシェフのハンバーグですね。季節ごとに味が変わるのも、楽しみの一つ。今は煮込みハンバーグ丼ですかね(期間により販売していない時期があります)、おいしいのでぜひ食べてみてください。
こちらも人気のカツ丼。観光客にはセイコーマートのHOT CHEFを目当てにしている人も多い。
独自の経営戦略で存在感を発揮しているセコマ。すでに北海道グルメの一つとして注目されるホットシェフのメニューや期間・数量限定の商品、北海道らしさが詰まったオリジナルの商品など、充実した品ぞろえはさすがの一言に尽きる。また赤尾社長の言葉からは行くたびに新鮮な驚きと楽しい発見をくれるコンビニであり続けるために、知恵をしぼり、工夫を凝らす社員の奮闘ぶりも垣間見えた。旅人たちよ、まずはホテル近くのセイコーマートに足を運んでみよう。
Information
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TEL:0120-89-8551
受付時間:月〜土曜 9:00〜17:00
セイコーマートHP
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