アウトドア天国
2024.08.23

遊びの達人に聞く!都会の山小屋「SappoLodge」流、札幌の楽しみ方

札幌をもっとディープに遊ぶなら、その道のプロに聞くのが一番だ。ゲストハウス&ダイニングバー〈SappoLodge(サッポロッジ)〉の代表であり、山岳ガイドの奈良 亘さんは北海道、そして札幌を知り尽くす遊びの達人。これまで世界40カ国以上を旅し、南極観測隊としての経歴も持つ奈良さんから見た札幌の魅力とは? 札幌をディープに遊ぶためのコツを教えてもらった。

Photo: Ryoichi Kawajiri / text: Gentaro Kodama

北海道で遊びたい旅人たちが集う
DIYから生まれたサードプレイス。

アジア最北の歓楽街、ススキノ。奈良さんが代表を務める〈SappoLodge〉は、そのすぐ隣、創成川を挟んだ先に建っている。札幌で生まれ育ち、大学を卒業後に世界中の山や川、海、さらには秘境とされる場所までを冒険し、ガイドとして日本から海外への旅のサポートも行ってきた奈良さん。2011年には第53次南極越冬隊の野外観測支援を行うガイドに選抜され、1年4カ月にわたって昭和基地で過ごした。「世界中を旅するうちに、北海道の自然の素晴らしさに改めて気付いたんです。小さい頃から当たり前の環境だったので、意識していなかったけど、これからは北海道を世界に発信していくべきだと思ったんです」。

南極越冬隊時代の奈良さん

南極からの帰国後、北海道をガイドするベースキャンプとしてつくったのが〈SappoLodge〉。札幌の中心部にありながら山小屋のような雰囲気を持つ建物は、そのほとんどがDIYで建てられているというから驚きだ。柱や階段といった基礎となる部分から壁や棚などの内装まで、北海道産の木材がふんだんに使われており、「天井の木は喜茂別町のトドマツで、自分たちで切って製材屋に運びました。バーカウンターの木も大雪山の麓にあった樹齢360年のアカエゾマツの一本木。これも自分たちでクレーンを使ってトラックに積んで持ってきました」。

薪ストーブの基礎は札幌軟石。これも採石場まで足を運んで切ってきた

総勢200人くらいの仲間が手伝い、6カ月ぐらいかけて作り上げたという〈SappoLodge〉は、10年目を迎えた今でも、扉を開けるとフワッと木の匂いが香り、訪れる人を都会の喧噪から離れた別世界へと誘ってくれる。

扉を開けた先にある道産材で手造りされたダイニングバー

ゲストハウスとしてシャワーや宿泊施設も完備している

札幌の豊かな自然は山に登ると分かる。
おすすめは原始林が残る円山と藻岩山。

この〈SappoLodge〉を拠点に、北海道での四季を通じた遊びやアウトドアツアーを企画・提供している奈良さんに札幌の魅力を聞いてみると、「札幌はすごくいい街」と即答。さらに「ガイドとしても案内しやすい」と返ってきた。

「200万人弱が暮らす都市なのに自然が本当に近い。冬にはパウダースノーが積もり、バックカントリースキーができる山だって1時間圏内ですよ。そんな街は世界広しといえどもなかなか無いですよ」。

中級者には定山渓に札幌岳や天狗岳など1,000m級の山もある

さらに奈良さんは続ける。「札幌には小粒で良い山もたくさんそろっているんですよ。三角山や大倉山、円山、そして、藻岩山。それらはすべて軽装で登れて、30分〜1時間半ほどで山頂に着くので、気軽にハイキング気分で札幌の自然を身近に感じることができます。特に円山と藻岩山は札幌農学校の卒業生で、植物学者としても知られる宮部金吾などが後世に残すべきだと守ってくれたおかげで、奇跡的に原始林が残っています。植生が豊かで、カツラやニレなどの巨木があちこちにある。目に入ってくる木のボリュームがすごい。これは間違いなく札幌の財産ですよ。山岳ガイドとしていろいろな山を登ってきましたが、『こんなにいい山が都心部にある札幌ってすごい!』って登るたびに感動しています」。

保護されてきた円山と藻岩の原始林は現在、国指定の天然記念物になっている

観光で大切なのはストーリー。
知るほどに、もっともっと感動できる。

「唐突に聞こえるかもしれませんが、例えば、サッポロビール園のジンギスカンやビールも、札幌市内の街歩きガイドツアーに参加して、背景にある歴史や文化を知ってから食べると、より一層味わい深く感じてもらえると思いますよ。それだけ、札幌には語りどころがあるし、まだまだ掘り起こされていない情報もあったりします。それを知ってもらうのが、僕らガイドの役目だと思っています」。

自然や歴史だけでなく、食についても日々、外食して情報のブラッシュアップを図っている

実は札幌は太古の昔、海の底にあった。奈良さんが手がけるツアーではそうしたあまり知られていない札幌の歴史にも触れることができる。「定山渓温泉に向かう国道のすぐ横を流れている豊平川の上流では、今のマナティやジュゴンの仲間であるサッポロカイギュウの化石が見つかっています。今も貝の化石がゴロゴロと転がっていて、そうした化石の発掘も楽しみながら沢を登るツアーを行っています」。

太古のロマンに触れられる化石発掘がセットになった沢登りツアー

「豊平川のほかにもたくさんの良い沢があるのも札幌の魅力だと思う」と奈良さん

さらに奈良さんは現在、その豊平川沿いに秘密基地のような遊び場をつくっているという。「札幌って無数の遊び方、楽しみ方があるんです。つくづくやばい場所だなって思うんです。マウンテンバイクで野山を駆け巡ったり、川の近くでサウナを楽しんだり、畑をやったり、キャンプをしたり。そんな遊びの拠点を作っている最中なんです」。

旅の予定をあえて決めずに、
不確定な要素との出会いを楽しもう。

旅において、あえて予定を決めないことで、思わぬ感動を味わえたりすると、奈良さんは言う。「経験上、不確定要素があればあるほどいいと思うんです。例えば、旅先で偶然出会った農家の方からもらった野菜が、これまで食べた中で一番おいしくて感動したり。そういうふれあいや、一瞬の出来事を大切に旅をすると、これまで見えなかったものや、新たな感動と出会えます」。

ツアーを終えてビールを飲んでその日を振り返るのが至福のひとときと語る奈良さん

実際、〈SappoLodge〉にはスケジュールや旅の目的を決めずにやってくる人が多いそう。「でも、任せてください。昔から札幌で遊んできたので、僕には遊びの引き出しがいっぱいあります。プロのガイドとして1日を構成していくのが僕の仕事。それは自然での遊びに限りません。夜の過ごし方も含め札幌の魅力を最大限お伝えします。1日に何回『最高!』と言ってもらえるかが、僕にとっての喜びですね」。

〈SappoLodge〉は海外でも評価が高く、世界中から旅人がやってくる

さらに夜はダイニングバーとして営業している〈SappoLodge〉では、ゲストハウスの宿泊客と地元の札幌市民が、その日の出来事を語り合ったり、遊びやグルメの情報交換しているのが日常風景。「ここに来る人は基本的にアクティブだし、社交的。ここで出会ってカップルになって結婚した人もいますよ」。毎日、いろんな人が訪れては、日々、筋書きのないドラマが生まれている〈SappoLodge〉。札幌をディープに遊びたいと思ったら、まずは何も決めずに奈良さんを訪ねてみるのも良いかも知れない。そこには、これまで知らなかった出会いと感動が待っているはずだ。

サッポロクラシックからクラフトビールまで地酒も充実

奈良さんは積丹でもアウトドア関連の会社を持ち、クラフトジンのアンバサダーも務める

Profile

奈良 亘(山岳ガイド)
なら・わたる/札幌で生まれ育ち、小学生のころにヒッチハイク&野宿で北海道を縦断して旅に目覚める。これまでアコンカグア、キリマンジャロ、マッキンリーなど世界各地の最高峰を登頂。2014年にガイドオフィスとSappoLodgeを立ち上げる。(社)日本山岳ガイド協会公認 山岳ガイド、(社)北海道山岳ガイド協会 理事。

SappoLodge(サッポロッジ)

住所:札幌市中央区南5条東1丁目1-4
TEL:011-211-4314
営業時間(ダイニングバー):18:00〜26:00(食事は24:00まで)
https://sappolodge.com/
@sappolodge

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