旅人を連れて行きたい、おいしい店
札幌のタウン誌やフリーペーパーを担当する編集者やライターがはるばる来札した友人に思わず自慢したくなる店。「本当は誰にも教えたくないけれど」と前置きした上で、ウンチクを述べたくなる、そんなローカルの自尊心をくすぐる「旅人を連れて行きたい、おいしい店」を3店舗、紹介しよう。
photo: Yoshitaka Morisawa / text: Tamaki Sugaya,Aiko Ichida
“おいしいもの”の玉手箱!「フーズバラエティ すぎはら」
「北海道神宮」にほど近い宮の森の住宅街に佇む「フーズバラエティ すぎはら」は、1941年の創業以来、“地域住民の台所”として愛されてきたスーパー。店舗に入ると、まずその品揃えに目を見張る。約100坪の売り場に並ぶのは、社長の杉原俊明さん自らが札幌市中央卸売市場で仕入れてきた青果を中心に、全道、全国から集めた“おいしいもの”たち。厳選した生産者から直接取り寄せる旬の野菜やフルーツにもファンが多く、有名レストランのシェフが通い詰めるなど、食のプロからの信頼も厚い。野菜の品揃えにこだわり始めたのは、杉原さんが野菜ソムリエの資格を取得した2007年頃から。「生産者との接点ができたら、どんどん面白くなっちゃって」と杉原さん。自ら手書きで制作するPOPには、野菜をおいしく食べてもらおうという愛情がにじみ出ている。
食品コーナーを担当するのは、長男の杉原一成さん。食べることが好きで、食品メーカーに就職後、家業を継ぐことに。「うちはスタッフみんなで試食して、『これはおいしい!』というものを店頭に並べています」。おすすめ商品を訊くと、あれもこれもと次々に出てきて止まらない。お菓子から麺類、調味料、冷凍食品に乳製品まで、スタッフ全員が太鼓判を押す商品ばかりを取り揃えているから、おすすめを絞ることなど不可能。まさに「箱推し」状態だ。「気をつけたのは、お土産物屋さんにならないこと」。杉原さん親子は、そう口を揃える。北海道産だからといって何でもかんでも置くわけではない。「ここはデパートではありません。人に贈るものより、自分が食べたいものを選んでほしいですね」。こだわりのスーパー「フーズバラエティ すぎはら」では、自分の食指に従い思いっきりわがままに商品選びを楽しみたい。
それぞれの“持ち場”からイチオシの商品を手にする杉原さん親子。次男の健太さんも野菜ソムリエの資格を持ち、青果部門を担当する。そんな杉原さん親子に聞いたおすすめ商品をピックアップ。言うまでもなく、これはそのごくごく一部だ。
INFORMATION
フーズバラエティ すぎはら
住所:札幌市中央区宮の森1条9丁目3−13
TEL:0120-202-447
営業時間:10:00〜19:00
定休日:日曜定休・祝日不定休
https://www.f-sugihara.com/
クラブなのには訳がある!「ツキサップじんぎすかんクラブ」
札幌にジンギスカンの名店は数あれど、「ツキサップじんぎすかんクラブ」は別格だ。市内中心部から車で約20分。札幌とは思えないほど牧歌的な風景を眼前に、七輪にのせた特製鍋で焼くジンギスカンが味わえる。創業は1953年。ジンギスカンといえばラム肉を思い浮かべる人も多いが、こちらは創業当時から一貫してマトンにこだわる。その理由を専務の千田祐司さんにたずねると、「もともとは開校90年以上の歴史を誇る農業専門学校『八紘学園』で、羊毛を取るために飼育していた羊の肉を食べたのが始まりです」とのこと。羊毛を何度も刈り終え、年老いた羊に感謝を込めておいしくいただこうと、有志を募ったのが始まりだとか。店名に「クラブ」とあるのは、仲間が集まりジンギスカン鍋を囲っていた時代の名残だった。
ところで、ジンギスカンの肉は大きくラムとマトンに分けられる。ラムは生後1年未満で永久歯が1本も生えていない子羊の肉。肉質は軟らかくて、臭みがないという説が一般的。一方、大人になってしまった羊の肉マトンには特有の臭みがあるともいわれるが、それこそがジンギスカンの醍醐味とあえてマトンを選ぶ食通も。しかしこちらのマトンは1〜2歳の羊に限定し鮮度にもこだわっているため、十分に軟らかく臭みを気にする必要なし。炭火で焼くので、余計な脂が落ちてうま味が凝縮される。醤油ベースのちょっぴりスパイシーなたれでいただけば、おいしさが忘れられない体験に。
さらに「ツキサップじんぎすかんクラブ」といえば、知る人ぞ知るワインの宝庫。店内奥のワインセラーには、国内外から集めたワイン数百本が眠る。シニアソムリエの千田さんに、マトンに合う1本を選んでもらおう。
食事メニューはジンギスカンだけという潔さもいい。肉・野菜・おにぎりのセットで注文し、あとは食欲に合わせて追加しよう。ロケーション、歴史、こだわり、おいしさ、どれをとっても旅人に自慢したくなる1軒だ。
INFORMATION
ツキサップじんぎすかんクラブ
住所:札幌市豊平区月寒東3条11丁目2−5
TEL:011−851−8014
営業時間:11:00〜20:00、木曜17:00〜20:00
定休日:水曜、第3火曜日定休
https://www.tjc1953.com/
行けばこの店が札幌の“ふるさと”に。「喜多乃寿司」
北海道グルメといえば、海鮮。旅の途中に味わう寿司を楽しみにやって来る人も少なくないだろう。言わずもがな札幌には、高級寿司店から回転寿司まで数多の寿司屋があり、どの店もそこそこ美味しい(笑)。海の幸が豊富に獲れる恵まれた土地柄ゆえ、旬のネタが新鮮なのは当たり前なのだ。では寿司屋を選ぶ基準の「正解」は? それはプラスαの価値をどこに求めるかがポイントになる。
喜多乃寿司は創業48年。清田区エリアでは一番の老舗寿司店だ。札幌中心部からは車で約30分。地下鉄東西線南郷18丁目駅からは徒歩で15分ほどかかるので、お世辞にも利便性がいいとは言えないし、支払いはカード利用不可の現金のみ、営業時間もそれほど長くはないという情報だけを知ると、気軽に立ち寄りたい旅人には少し不便に感じられるかも知れない。
だが…いや、ゆえにこの店の素晴らしさを親しい友人や、遠方から訪れる親戚には知って欲しいのだ。「お寿司で心からのおもてなしをしたい」、そんな時になぜ喜多乃寿司を選ぶのか、その理由をいくつか紹介しよう。
お得すぎるランチは握りと生ちらしの2種類のみ。みそ汁と小鉢1品が付いてなんと1,100円。大満足のボリュームだ。
まずは「コスパの良さ」だ。筆者の場合、とりあえずの生ビールをいただき、お刺身をちょこっと盛り合わせてもらう。おすすめの日本酒を味わいながら、つまみを少々。〆の握りまで堪能して一人5,000円程度。もちろん大酒を飲み、高級なネタ尽くし、となれば話は違ってくるが、市内の一般的な寿司店のおまかせコースをオーダーしたら、食べ物だけで15,000円は当たり前。「喜多乃寿司」で飲み放題は提供していないが、予約の時に食事の予算を伝えると、それに合わせた内容の提案をしてくれるのもうれしいポイントだ。「ご近所さんに気軽に寿司を楽しんで欲しい」という大将の心意気が良心的な価格を守り続けている。
おまかせの握り「喜多乃寿司」は3,200円、お刺身の盛り合わせは一人前1,500〜2,000円と良心的。女将がセレクトする全国の銘酒と一緒に味わいたい。お酒はいずれも一杯700円(たぶん一合以上)。
さらに「職人の誠実な仕事ぶりを実感する寿司の旨さ」。北海道の寿司はネタの新鮮さと大きさが魅力だが、喜多乃寿司はネタ本来の味を最大限に引き出すシャリが絶妙なのだ。同じネタを食べたとしても、シャリ次第で口の中での味の広がり方、感じ方がまったく違う。こまめに炊き上げるというシャリはネタとのバランスを考えて、ほどよい甘さに調味。大将に「どうしてこんなにシャリが美味しいのか」を尋ねると、「いやいや、そんな。感覚だよ」と謙遜するが、目利きによるネタ選びも、こだわりのシャリ作りも長年の経験に裏打ちされた技術に他ならない。ネタの鮮度に頼らず、クオリティの高いお寿司がいただけるのは、このシャリがあってこそ。イカや甘エビ、ホタテ、ツブなど北海道ならではの新鮮な魚介はもちろんのこと、自家製の〆サバや秘伝のタレでいただく穴子との相性も抜群だ。
大将の丸井修さんと、女将の淳子さん。カウンターの内外で繰り広げられる二人のかけ合いが楽しく、まるで実家に帰ってきたような温かな雰囲気が心地いい。
美味しさと良心的な価格もさることながら、旅行者への1番のおすすめポイントは「ここは自分の地元?」と錯覚してしまうほど気さくな接客。一度足を踏み入れたらそこはホーム。とにかく元気で明るく、よく笑う大将と女将さん。つられて、ついつい楽しい気分になるからお酒も進む。望めば、いつの間にか家族のように温かい空気で包み込んでくれる不思議な店。そのせいか、一度連れて行った旅人たちは「またあの店に連れて行って」と口を揃える。長年大将を支え続け、常連客から“お兄ちゃん”の愛称で親しまれている職人・斉藤裕之さんも加わり、店の中はいつも賑やかだ。たとえ札幌が初めての人でも、肩の力を抜いて「カウンター寿司」を味わえる。まさに、何度も通いたくなる店だ。
カウンターは6席。小上がりの個室が3つあり、グループでの利用にもオススメ。
INFORMATION
喜多乃寿司
住所:札幌市清田区北野7条2丁目12-25
TEL:011-881-1244
営業時間:ランチ11:30〜13:30、ディナー17:30〜20:30(L.O.)
定休日:水曜定休