みんな大好き、都会のオアシスは
北海道を代表するイベント会場にも
1954年に始まった「さっぽろ夏まつり」。大通公園がメイン会場となったのは、1957年開催の第4回から。ビアガーデンのほか「北海盆踊り」なども行われる。
大通公園6区画を使用して開催されるビアガーデンは、日本有数の規模を誇る。
四季折々の花が楽しめる花壇は市民ボランティアやスポンサー企業などが参加し、維持されている。
イサム・ノグチの彫刻作品「ブラック・スライド・マントラ」は大通公園の西8丁目と西9丁目の中間にある。アートであるだけでなく、滑り台として子どもたちに大人気。
冬の札幌を彩る「さっぽろホワイトイルミネーション」。大通会場にはシンボルオブジェが設置される。
街の中心部を東西に横切る大通公園は大通西1丁目から大通西12丁目まで約1.5km、端から端までのんびり歩くと30分ほどかかる。12のブロックに分かれた園内には色とりどりの花が植えられ、青々とした芝生や樹木のほか、噴水や多彩な彫刻作品などが点在していて、目を楽しませてくれる。その周囲は百貨店や商業施設、ビル群、マンションなどに囲まれ、文字通り、都会のオアシスだ。
さらに初夏の訪れを告げるさっぽろライラックまつり、YOSAKOIソーラン祭り、夏の風物詩となったさっぽろ大通ビアガーデン、食の祭典さっぽろオータムフェスト、さっぽろ雪まつり、さっぽろホワイトイルミネーションなど、季節ごとにさまざまなイベントが開催される北海道随一の会場でもある。
旅人たちはテレビ塔を背景に記念撮影をすれば、札幌を旅した証しとなる思い出の一枚に。一方、市民にとってはリビングのような、庭のような存在であり、1年を通して多くの観光客、市民が行き交う場所となっている。
気軽に、自由に、ホッと一息
本日、公園日和
この日は7月中旬、この夏一番の暑さ(最高気温33度!)を記録した。そのせいか、普段に比べると午前中の人出は若干少なめ……と思いきや、お昼前ごろからまるで大通公園に吸い寄せられるように、国内外の観光客や地元の若者たちを中心に人が続々と集まってきた。とりわけ噴水まわりや木陰のベンチは「満席」状態。暖かな風に吹かれたい日も、涼を求める日も、やっぱりみんな足は大通公園に向くらしい。
ある日の大通公園を彩る
9つのエピソード
Episode1)待ち時間によみがえった幼き日の記憶
大学生が2人、仲良くベンチに並んで座っていた。どうやらもう一人の友人と待ち合わせをしているらしい。「普段はサツエキ(札幌駅)で待ち合わせることが多いけど、今日は天気もいいし、いつもとちょっと気分を変えて大通公園にしようと」。着いてから10分ほど互いにスマホを眺めながら、取り留めのない会話を交わしていたという。
大通公園で過ごした思い出を尋ねると「子どもの頃に習っていたエレクトーンの発表会(の会場)が大通公園だったので、毎年来ていました」「雪まつりとか、親と一緒に来たよね」と懐かしそう。久しぶりに訪れたこの場所には、幼い頃の家族との記憶が詰まっているようだ。
「でも、たまにいいね。花とか噴水とかキレイだし、あぁ、こんな場所だったんだなって」。視線はスマホの画面から周囲の景色へ。彩り豊かな花壇やキラキラと光る水面を弾くしぶき……それは成長した彼らがあらためて知る、大通公園の新たな魅力。
そろそろもう一人の友人が来る頃。合流したら、狸小路でランチをする予定だ。
Episode2)仲良しカップルに学ぶ、大通公園の過ごし方。
爽やかなカップルに出会った。温泉旅行からバスで札幌に戻ってきたばかり。〈どんぐり〉(パン屋)で購入したパンが今日のランチらしい。好物の塩パンを美味しそうに頬張る彼女、それを愛おしそうに見つめる彼氏(は米粉パンを食べていた)、どちらも幸せそう……。大通公園にはよく来ると言う。「街なかだけど自然を感じられるし、気持ちいいよね」「予定を立ててわざわざじゃなく、お出かけついでに気軽に来られて楽しく過ごせる場所かな」。とにもかくにも「ベンチに座ってのんびりおしゃべりしている時間が楽しい」と視線を合わせて微笑む2人。
ところが「実は夜のほうが出没率が高い」と教えてくれた。別々の飲み会に参加したときに待ち合わせをしたり、風に当たって酔いを覚ましたり……大通公園にはそんな“用途”もあるそうだ。
Episode3)憂いをまとった俳優の重大発表とは……。
木陰のベンチに座っていた青年(写真中央)は、どこか物憂げな表情に見えた。気になって声をかけると、職業は俳優。札幌の事務所に所属し、芸能活動をする傍ら新規ビジネスに挑戦するなど、精力的に活動している日常が垣間見えた。ハキハキとした語り口とやわらかな笑顔が印象的で、会話が進むにつれて冒頭、気になった表情のことはすっかり忘れていた。
大通公園には月に一度、コーヒーを携えてふらりと立ち寄るらしい。お気に入りの噴水がよく見えるベンチに座ってくつろぐ時間が好きだと言う。「今日は俳優とアイドルをしている仲間と3人で、YouTube用の動画を撮影するために来ました。もうすぐ2人が来るはず」。待ち合わせの時間まで、配信内容を整理しているのだろうか。内容を尋ねると「実は僕、始めようとしていたビジネスで詐欺に遭っちゃって。今日はそのことを語ろうと思っています」。なるほど……まとっていた憂いの一因は、詐欺被害に遭ったこと??? 「そういうことでしばらく活動をお休みするので、その発表もするつもりです」。一体、どんな配信になるのやら……。
Episode4)晴れた日は必ず。自由と幸せを実感できる場所だから。
こんがり焼けた肌に日ハム(北海道日本ハムファイターズ)のユニフォーム姿がよく似合う男性が一人、噴水を眺めていた。片手には缶チューハイを携え、炎天下で渇いた喉を潤す姿が清々しい。さっそく声をかけると、今日はもう2時間ほど、この場所で涼んでいるとのこと。「定年してから、夏場は毎日。晴れた日は必ず来ているよ。もう、毎日が日曜日だから」とご機嫌な様子。パチンコ関連のメーカーに勤務し、営業一筋。仕事はやり切った、と振り返る。「今は楽しいが一番。ファイターズもね、勝ち負けじゃないよ。新庄監督は楽しいから……それが魅力」。そう語る表情はまるで少年のよう。なぜ毎日大通公園に通うのかを尋ねると「ここは世界中から時間と余裕がある人が集まる場所だから。自由と幸せを実感できるんだよね」。仕事に追われていた生活から解放された今、radikoを聴いたり、YouTubeを観たり……大通公園はゆっくりと流れる時間に身を任せて過ごすことができる、幸せな“居場所”だと言う。心豊かなセカンドライフに乾杯!
Episode5)人通りが多く緑豊かな大通公園は、最高のお仕事環境。
大通公園西8丁目付近に停まっていたキッチンカー。その中で読書をしながら、お客さんを待つ女性がいた。「今日は暑すぎて、人通りもまばら。正直、あまり売れていませんね(笑)」と茶目っ気たっぷりに教えてくれた彼女。聞けば、市内の就労継続支援B型事業所「cafe かじゅまる 」を運営する会社のスタッフだという。「障害があったり、難病を患っているなどの理由から、一般企業などで働くことが難しい利用者さんに、就労の機会を提供している」そうで、キッチンカーも“働く場”の一つと考えているらしい。「許可を取って、7月からここで営業を始めました。毎日じゃなく、今日が5回目くらいかな……。ある程度の人通りはあるし、自然の中でゆっくり仕事に向き合えるのも、利用者さんたちにとってはバランスの良い職場環境になるかなと思っています」。今日はカフェ自慢の手作りおにぎりやアイスコーヒーを用意し、11:00から17:00まで営業予定だ。
彼女にとって大通公園は「小さい頃に親に連れてきてもらった思い出もあるし、今はもう大学生になった娘ともよく遊びにきました。落ち着く場所、ですね」。慣れ親しんだ大通公園で、誰もが自信と人の役に立つ充実感を持って働ける場づくりを。彼女は今、目標に向かって一歩ずつ歩いている。
Episode6)移住したママ友を訪ねて東京から。
西9丁目は大通公園の中でも、特に子どもたちの楽しげな声が響き渡るにぎやかな場所だ。滑り台や遊具、夏は水遊びを楽しめる遊水路もある。この日は猛暑の影響で親子の姿はやや少なめ。そんな中、思いっきり水と戯れて、ずぶ濡れになっている子どもたちの“お着替え”に、必死の形相のママが2人。声をかけると、今はそれどころではない雰囲気。数分後に話を聞くと、ショートカットのママは東京在住。家族で道内を旅行し、札幌に移り住んだママ友に会いに来たのだと言う。道産子にとってはうだるような暑さも「カラッとしているから、気持ちいい」と爽やかな札幌の夏を楽しんでいる様子。「彼女がご主人の転勤で札幌に移住して以来、初めてだから……4年ぶりの再会です」「上の子は赤ちゃんの頃からよく一緒に遊んでいたけど、今回は“初めまして”状態。大きくなったよね」と、久しぶりの再会を喜び、互いの子どもたちの成長に目を細める2人。旅の思い出と再会の記念に写真を一枚撮ると、「これからみんなでトウモロコシを食べに行きます!」と東へ移動。素敵な旅の思い出になりますように。
Episode7)ただいま“天サロ”中。コワモテ3人組は神輿かつぎのお仲間。
燦々と降り注ぐ陽光の下、芝生の上で気持ち良さそうに寝そべっているお兄さんたちは、“天サロ”(自然な日光を利用して日焼けをする方法)を堪能中。遠目にもコワモテゆえ、恐る恐る「こんにちはー」と声をかけると、笑顔で応えてくれた。「オレたちはお神輿会の仲間。“悪い仲間”じゃないから安心して(笑)」。地域の神輿はもちろんのこと、遠征も時々……というから生粋の担ぎ手、お祭り男たちだ。
「ここ(大通公園)はガキの頃から憩いの場」「今もしょっちゅう来るね、夏はビアガーデン!」と、とにかくにぎやか。ちなみに、と教えてくれたのは、7丁目から歩いてすぐのスープカレー屋「SOUP CURRY &Asian Dining SHANTi」(札幌市中央区大通西7丁目2番地2アセットプランニングビル1F)について。「スパイスが効いていて、野菜の彩りがいいんだよ。大通公園に来たら行ってみて。美味いよ」。どうやら3人も今日のランチはスープカレーだったらしい。楽しそうで何より。ただし、熱中症には気をつけて。
Episode8)愛犬家もワンコも!お散歩天国、大通公園
札幌の夏は日中どんなに気温が高くても、朝晩は涼しい風が肌をなでる。日が落ちて少し経つと、愛犬の散歩にやって来る人がちらほら。炎天下に熱を溜めたアスファルトの上を歩かせるのはちょっと……と、夏の間は日没後に出かける人が少なくないようだ。
さっそく愛犬「まるちゃん」(雄・8歳)を散歩中の男性に声をかけた。「仕事が早く終わったので、散歩に連れてきました。普段はあまり散歩の習慣がないんですけど、やっぱり嬉しそう」。光、水、音、花の香り、人の声……犬にとっても、五感を刺激される散歩コースなのだろう、周りの様子に興味津々だ。「“可愛いね”なんて言われて、ちょっと得意げな顔をしていたり。普段と違う表情を見られて面白かったです」と飼い主さんも嬉しそう。糞尿のマナーを守って、愛犬と地球にやさしいお散歩を!
Episode9)K-POPダンサーを夢見て……毎日自主練!
ガラス面を鏡にフリを確認しながら、一人黙々とダンスの練習に励む専門学校生に出会った。中学・高校時代は野球に打ち込んだが、卒業後の目標を見出せずにいたある日、バイト先の映画館で映画『MY SHINee WORLD』を観て衝撃を受けた。それは韓国を代表するアイドルグループSHINeeのデビューから15周年までの軌跡を追ったビハインドストーリーとライヴ映像で構成されたものだったが、「ただただカッコよくて、圧倒されました」と目を輝かせる。その後、父親に頼み込んでダンスの専門学校に通い始めた。「好きなことならとことん頑張れって、応援してくれました。恩返しじゃないけど、ちゃんと結果を残したいから絶対にプロになりたいし、K-POPの世界で活躍したい。そのために今、必死に練習しています」。その言葉通り、学校が終わってからほぼ毎日大通公園に通い、今日も19:00から22:00までみっちり自主練だ。「学校の友達と一緒に音に合わせて踊ることもあります。大通公園にはいつも人がいるし、“見られている”意識を持って練習ができるので、そこもいいなと思っています」。
大通公園には夜になると彼のようにダンスの練習に精を出す若者たちがたくさんいる。いつか大通公園から、次世代のスターが生まれる日が来るかもしれない。
札幌・大通公園で行われるEvent情報
【2024年】
◉7月19日(金)~ 8月16日(金)
さっぽろ夏まつり
国内最大級のビアガーデンや北海盆踊りなど、札幌の夏が楽しめるさまざまなイベントを実施。
◉8月25日(日)
北海道マラソン2024
国内外の招待選手を含めた総勢1万人を超えるランナーが札幌市内各地を激走。夏季では国内最大級のマラソン大会で、スタートとゴール地点が大通公園となっている。
◉9月6日(金)~ 9月29日(日)
さっぽろオータムフェスト
北海道・札幌の食をメインテーマに開催される食の祭典。会場ごとにコンセプトが設けられ、道内各地から旬の素材、ご当地グルメが一堂に取り揃えられる。
◉11月22日(金)~ 12月25日(水)
2024ミュンヘン・クリスマス市 in Sapporo
姉妹都市のドイツ・ミュンヘン市でクリスマスに開催している伝統的なイベントを大通会場に再現。クリスマスの雰囲気を感じながらホットワインなどのドイツの味覚や雑貨を楽しめる。
◉11月22日(金)~ 12月25日(水)
さっぽろホワイトイルミネーション
色とりどりの電飾が市内中心部を彩る冬の風物詩として定着したイルミネーション。メインオブジェ、立木装飾など、幻想的なイルミネーションが街を彩る。会場は大通公園ほか、札幌駅前通、札幌駅南口駅前広場、札幌市北3条広場(アカプラ)、南一条通など
【2025年】
◉ 2月4日(火)~ 2月11日(火・祝)
さっぽろ雪まつり
今や世界的にも有名になっている、雪国最大のイベント。雪でできているとは思えない精巧な大雪像は、高さ15メートルにも及ぶ。