都市と自然
2023.10.13

札幌の大自然に囲まれて暮らす、映像カメラマンのニール・ハートマン。彼がおすすめする、手ぶらで出会える札幌の大自然3選とは…

「北海道の雄大な自然に抱かれたい」。それを満喫できる場所が、札幌中心部から車で40〜50分の定山渓(じょうざんけい)エリアにあるという。世界中のアウトドアフィールドを知り尽くす映像カメラマン、ニール・ハートマンが定住するほどに魅了された理由とは。札幌市内の大自然で楽しめるアクティビティを3つ体験してきた。

photo: Yoshitaka Morisawa Neil Hartmann/ text: Aiko Ichida

初心者も旅人も大満足! ガイド付きアクティビティのススメ

札幌は緑豊かな自然に恵まれた都市として知られている。中心部にほど近い円山、藻岩山には、学術的にも貴重な動植物が生育する原生林が残り、200万人近い人が暮らす都会ながら、おいしい空気と清らかな水が“当たり前の日常”にある。アメリカ・サンディエゴ出身の映像カメラマン、ニール・ハートマンさんもこのエリアに魅せられた一人だ。1991年に来札、ウインタースポーツをこよなく愛し、「雪山へのアクセスが最高!」との理由から2005年ごろより定山渓エリアに定住。自身の住む温泉街の片隅を「定山渓ヒルズ」と呼び、ソフトクリーム店を営みながら、大自然と仲良く暮らしている。

「定山渓に住んでずいぶん経つけれど、近くにこんなに素晴らしい場所があったんだといまだに発見がありますよ。ここは大人も子どもも楽しめる、遊び場の宝庫。とはいえ、向き合うのは動物たちも暮らす大自然です。中には危険な場所もあります。登山やカヌーなど、道具を携えて本格的にチャレンジするまではいかないけれど、旅の途中で北海道らしい自然の景色に癒やされたい、おいしい空気を吸ってリフレッシュしたいという方にはやはり経験豊富な達人たちが見つけ出してくれた安全に遊べる場所でのキャンプやアクティビティがおすすめですね」

実際、温泉街として親しまれてきた定山渓エリアには、ここ数年の間にサップやカヌーなどのアクティビティを展開する事業者が増え、安全に楽しめるプランやレンタルサービスが充実。「思い立ったら、大自然」を実現できる、とっておきの3選とは。さぁ、今スグ手ぶらでGO!

1.川遊びをするならフリルフスリフ

川の流れに身を任せてゆらゆらと揺れているひとときは、どんなに忙しい日常を過ごしていても心がほぐれていくという。ニールさんも、リフレッシュ効果は「絶大!」と太鼓判を押す。

サップやカヌー、沢登りなど川遊びが大好き、というニールさん。「温泉街を流れる豊平川の下流に玉川橋という小さな橋があります。そのあたりから河原に下りて、少し上流へ行くと、ダムからの冷たい水と、温泉街から流れてくる温かい水が混じり合う境目のようなエリアがあって、そこに浮かんでいるとすごく気持ちがいいんです。夏はライフジャケットと浮き輪を持って、子どもたちとよく遊びに行きました。ちょっとした岩のビーチにはカヌーやサップを楽しむ人向けに着替え用のテントが張られていたりして、ツアーのスタート地点にもなっている場所です。これからの季節は、川から見える渓谷の紅葉も素晴らしいですよ」。

初心者が楽しむなら…ということでニールさんが教えてくれたのが「フリルフスリフ」。定山渓エリアでの「四季あそび」を展開する、アクティビティの事業者だ。下準備をしっかりと行い、「安全性が確保された上で、スリルを味わえるツアー」を提供し、自然のダイナミックさや素晴らしさを伝えてくれる、と評判だ。ホテルとの契約も多く、空きがあれば、当日でも気軽に参加できるという。その多岐にわたるメニューの一部を紹介しよう。

*ラフティング&SUP(サップ)

春は上流部での「豊平川激流ラフティング」、川の流れが穏やかな夏から秋にかけては川でゆったりと過ごす「渓谷サップツアー」や「ゆったりカヌーツアー」が人気。中でもニールさんのおすすめは「渓谷サップツアー」だ。

びしょ濡れになって遊ぶもよし、景色を楽しむもよし。自分に合った楽しみ方で川遊び体験をすることができる。濡れてもいい服、シューズ、タオルはレンタルも可。基本的には手ぶらでOKとのこと。その日の気温に合わせて、ドライスーツやウェットスーツも借りられる。

サップは一人乗りの乗り物なので、自分で操船しながら行きたい場所に行けるワクワク感と、バランスを崩せば、川の中に落ちるかもしれないというハラハラ感がたまらない。

「これからの季節、透明度の高い澄んだ水に反射する色とりどりの紅葉、木の上からひらひらと葉っぱが落ち、水面にピトッと降り立つ様子は、川を下った人にしか見られない景色」とフリルフスリフの代表・木村さん。

*夜のツアー

「ナイトクルージング&夜カフェツアー」という夜の川下りツアーも参加者には大好評のようで、「カップルや夫婦で参加するには、もってこいだと思います」と胸を張るのは、フリルフスリフの代表・木村駿太さん。街の明かりが少ない定山渓エリアは渓谷になっているため、晴れていると必ずと言っていいほど、たくさんの星が見られるという。

運が良ければ流れ星が見られることも…。

*沢登り

日本が生んだ登山法と言われる、沢登り。「暑い夏の日はとても冷たくて気持ちがいい」とニールさん。手も足も、体を全部使って水に逆らい前進する。これがものすごくエネルギーを消費するようで「まるで動物になったような感覚」と言う。水が深いところに飛び込んだり、一枚岩でできた自然の滑り台で遊んだり…テーマパークのような楽しさもありつつ、自然に挑んでいるような、ちょっとした冒険家気分に浸れるらしい。
※写真はテストコースを体験したときのもの。

沢登りの途中には、自然の“遊び場”が。なだらかな岩場は滑り台となり、川底が深い場所はダイブに最適。「達人たちは次々に面白いスポットを見つけ出すよね」とニールさん。

水の流れに逆らい、全身を使って前に、上にと歩を進めていく。決めたゴールにたどり着いた瞬間の達成感は格別という。

INFORMATION

 

フリルフスリフ https://www.friluftsliv.website
北海道札幌市南区定山渓温泉西 4 丁目 371(埜のてらす内 野あそびベース フリルフスリフ)
《アクティビティの問い合わせ先》070-1534-9272

これからの時期のおすすめプラン情報

・渓谷サップツアー、ゆったりカヌーツアー、ナイトクルージング&夜カフェツアー
【所要時間】120分程度
【参加対象】3~80歳まで、ペットとの参加も可
【料金(1人あたり)】大人(中学生以上) 5,500円/小人 4,500円
※11月末まで実施予定

 

・雪見ラフティング
【所要時間】120分程度
【参加対象】3~80歳まで、ペットとの参加も可
【料金(1人あたり)】大人(中学生以上) 5,500円/小人 4,500円
※積雪後から3月末まで実施予定

 

・雪見テントサウナツアー

【所要時間】120分程度
【参加対象】12歳~
【料金】大人2人の場合 → 20,000円/大人3人〜5人の場合 → 30,000円
※積雪後から3月下旬まで実施予定

2.トレッキングをするなら自然散策路「二見定山の道」

森林と清流、渓谷の風景をバランスよく楽しめる散策路。マイナスイオンを全身に浴びて、パワーチャージできること間違いなし。

「それはもう本当に素敵なので、ぜひ歩いてほしいですね」と、ニールさんが絶賛する散策路がある。トレッキングをするなら、「二見定山の道」一択。二見吊橋から豊平川に沿うように続く道を歩き、野鳥の声を聴きながら、約800種以上の山野草に出会う。ネイチャーウォークならではのおいしい空気もご馳走だ。

10月中旬の紅葉シーズンは格別で、冬はスノーシューのコースとしても人気なのだそう。雪が降る前ならスニーカーなど、歩きやすい靴であれば誰でも気軽に楽しめるという。いざ登山となるとそれなりの装備や知識が必要だが、自然と戯れる「初めの一歩」にはちょうどいい。

自分で気ままに歩くのもいいが、ニールさんの“推し”はガイド付きの散策。「正直、僕もつい最近、仕事で体験して、とっても感動しました。いろいろな野鳥や動植物の名前を知っていて、熟知する見どころにも連れていってくれるんです。もう驚きの連続。癒やされますし、めちゃくちゃ気持ちがいいです。詳しい人と歩くと、見える景色が全然違うんです」と熱っぽく語ってくれた。

ニールさんと一緒に歩いたのは、定山渓自然倶楽部に所属する一條晋さん。ほかにも、先に紹介したフリルフスリフ代表の木村さん夫婦もガイドとして活躍。「素晴らしい環境の中で体を動かしながら、知る喜びも体験できるなんて、本当に贅沢」。歩くたびに違う表情に出会えるのも、ガイド付きの散策ならではだろう。

定山渓自然倶楽部に所属し、プロのガイドとして散策路を案内するナチュラリストの一條さん。

ちなみに秋(10月)の夜の気温は10℃前後。薄いダウンなど、アウターの着用がマスト。日中は長袖程度でOK。10月末からは雪がちらつき、11月には雪が降るので、寒さ対策は万全に。
※「二見定山の道」の一部区間は現在通行止めとなっています。

INFORMATION

定山渓自然倶楽部 https://jozankei.jp/activity/nature-club/

3.手ぶらキャンプで大自然を体感。「定山渓 自然の村」

テントサイトほかコテージ、ゲル型のテントハウスなどの宿泊設備も完備。自然の楽しみ方を教えてくれるスタッフとの交流も、自然の村ならではの魅力。

札幌近郊では数少ない通年オープンの自然体験型施設として知られる、「定山渓 自然の村」。「食材以外、必要なものはほとんどレンタルできるので、旅の途中に“今日はキャンプ気分”なんて、わがままにもすぐに対応できちゃう」と笑うニールさん。「手軽にキャンプと聞けば、初心者向けを想像するけれど、本当に豊かな自然の中にあって、ゆったりと過ごせる場所」らしい。それでいて水場やトイレが清潔、という都会派には都合のいい条件が揃う。

季節の花や鳥、虫など様々な生き物に出会えるのはもちろんのこと、秋は美しい紅葉に囲まれ、カツラの木の葉の甘い香りが漂う。さらに空気が澄んだ秋から冬には、満天の星が広がるという。

テントやタープ、バーベキューコンロ、寝袋、ライトなど、レンタルできるアイテムや販売物品が充実。

9:00~17:00の日帰りキャンプも可能。自然の中で上質な珈琲を嗜むひとときは、自分へのご褒美になるはず。

INFORMATION

定山渓 自然の村 https://www.sj-naturevillage.jp

 

予約は利用希望日の2ヵ月前から電話にて(テントハウス、テントサイトはWEBでの予約も可能)。2ヵ月前が土、日、祝日の場合は翌平日の朝9:00より予約受付。
TEL/011-598-3100   ※受付時間:9:00~17:00

 

【料金】
[宿泊]13:00~翌日11:30
コテージ(5名)4,700円
テントハウス(7名)3,900円
特別テントサイト(10名)1,000円
普通テントサイト(5名)500円
連結テントサイト(10名)1,000円

 

[日帰り]9:00~17:00
※前日が満室の場合、チェックインは13:00〜
コテージ(5名)1,600円
テントハウス(7名)1,300円
特別テントサイト(10名)340円
普通テントサイト(5名)170円
連結テントサイト(10名)340円

大自然といえば、このあたりでは日中でもひょっこり鹿が顔を出すことがあるという。ニールさんがカメラを向けても、悠々と歩く鹿たち。定山渓は札幌市内でありながら、本当に自然と隣り合わせ、人間と動物が共存するエリアであることを実感する写真を最後に一枚。

警戒心が強いと言われる鹿も、ここでは自然に暮らしている。国道沿いギリギリまで近づくことがあるので、特に夜間のドライブは要注意。

PROFILE

Neil Hertmann
ニール・ハートマン/1972年、アメリカ・サンディエゴ生まれ。フォトグラファー、映像クリエーターとして活躍。90年代後半からスノーボードの広告・映像作品を手がけ、スノーボードムービー「CAR DANCHI」シリーズは代表作の一つ。近年は自身のYouTubeチャンネルも注目を集める。
https://www.youtube.com/user/neilhartmann

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