良い曲、良い音、良いお酒。
札幌の夜においしいお酒を飲むならば、良い音楽が欠かせない。酒にこだわり、音にこだわり、選曲にこだわる。音楽のジャンルこそバラバラな3軒。共通しているのは店主の個性が濃密で、札幌と音楽への愛が強いこと。
Photo/Tetsuya Ito Text/Rio Hirai edit/Daisuke Oguchi
このページは、雑誌『BRUTUS』2018年11月1日発売号(#881)掲載の中でも、特に反響の大きかった記事をピックアップしています。
音楽の楽しさを伝え続ける“ソウル”の学校。
1988年に店を開けて以来、ソウル一筋30年。70〜80年代のものを中心に5,000〜6,000枚あるというレコードは、今でも日々増え続けている。「自分自身がお店をやってて楽しいなと思うから続けられるんだよね」と話すのはマスターの安藝仁さん。15年前からここで働くタツさん(写真)と一緒に今でも店に立つ現役のマスターに、全国の同業者からの信頼も厚い。この日カウンターでは、常連だという男性とその娘の姿があった。「娘が20歳になった記念に」一緒に飲んでいるのだという。20〜60代と客層は幅広く、親子で訪れる客の姿も珍しくはない。「この間は20代のウッドベースやっている女の子が来ていろいろ聴いていったし、札幌で活動する若いDJたちもよく来るよ。たくさん質問してくるから、あれこれ一緒に聴いてみるんだよ。盛り上がってくるとちょっと踊っちゃったりしてね(笑)」。ここはまさに踊って酔える「ソウルミュージックの学校」だ。
最近のマスターの戦利品から、IKE WHITE『Changin' Times』(左)、Bettye Crutcher『Long As You Love Me』(右)。
Jim Crow(すすきの)
住所:札幌市中央区南5西2 美松村岡ビル7F
TEL:011-531-8271
営業時間:20時〜翌2時
定休日:日曜
チャージ:1,000円
《Paragon》とジャズ、そしてママの懐の深さ。
まず目に飛び込んでくるのは、〈JBL〉の名機《Paragon》。決して広くはない店内に対して一見不釣り合いに見えるほど大きなスピーカーだが、クリアな音にしっとりと包まれる感覚は心地よい。正面の席はもちろん、奥行きのあるカウンターの一番端の席でも、柔らかく反響する音色の質は変わらない。「マスターがジャズに合うスピーカーを探し求めて、45年前に出会ったこの《Paragon》。この音を聴いている時が、一番落ち着きます」と話すのは、マスターが亡くなった今、娘と共に店を支えているママの樋口ムツさん。「はじめはジャズに苦手意識を持っていたけれど、コルトレーンに衝撃を受けてからすっかり虜。若い人にも魅力を知ってほしいから、ここでは幅広くいろいろなジャズをかけるようにしています」。1961年に開店してから半世紀以上。昔からの常連、スタンダードナンバーをここで初めて聴く若者まで、すべてを温かく受け入れる。
ママ選盤の2枚はEric Dolphy『Other Aspects』(左)、John Coltrane『Coltrane Live at Birdland』(右)。
JAMAICA(狸小路)
住所:札幌市中央区南3西5 美松ビル4F
TEL:011-251-8412
営業時間:13時〜23時45分(水曜日は16時〜)
定休日:日曜
チャージ:500円
音楽を聴きたい人とやりたい人が交錯する場。
創成川沿いのビルの3階。扉の先には広々とした空間が広がっていた。自作のスピーカーにDJブース。ソファが無造作に置かれたリラックスしたムードの店には、道内外の様々な音楽イベントのフライヤーやポスターが置かれている。「最初に探していたよりも広い物件だったのですが、大は小を兼ねたらいいなと思いここに決めました。ライブはもちろん、フリーマーケットや個展などもできますよ」、そう話すオーナーの吉田龍太さんは、『RISING SUN ROCK FESTIVAL』のスタート時から関わり、今では〈Provo〉がプロデュースするエリアを展開。音楽レーベル〈SYNAPSE〉も主宰するなど、「やりたいことがある人が、やりたいことを実現できるように」という思いで場所や機会を提供している。〈Provo〉では週末にはDJが入り、イベントも積極的に行う。間仕切りのない広い空間で、演者や客が交錯して、新しいものが生まれそうなワクワクする場だ。
〈SYNAPSE〉よりコンピレーションCD『emergence xx』(左)と、The Cynical Store『COMMON MAGIC』(右)。
Provo(創成川東)
住所:札幌市中央区南6東1 KI BLD 3F
TEL:011-211-4821
営業時間:19時〜翌4時
定休日:月曜
チャージ:なし