さっぽろ散歩
2024.11.15

“北海道開拓の父”島義勇の歩みを知り、北海道神宮の新たな魅力を発見

北海道の総鎮守「北海道神宮」は、北海道の開拓の歴史と札幌の街づくりとともに発展してきた。成り立ちを紐解くと、キーマンが見えてくる。“判官さま”と慕われた佐賀藩士・島義勇(しま よしたけ)だ。島の功績を辿りつつ、北海道神宮に今も残るその面影、加えて境内の見どころを紹介しよう。歴史を知ると、旅はグッと面白くなる!

Photo:Yoshitaka Morisawa / text:Tamaki Soga

現在の社殿は1978(昭和53)年に建てられたもの。開拓三神に加え1964(昭和39)年に明治天皇を増祀し、4柱が祀られている。

まっすぐ社殿に続く第二鳥居。

神門にかけられた巨大なしめ縄。しめ縄の上に飾られた2段の俵が特徴的で、思わず写真を撮る参拝客も多い。

開拓民の心のよりどころとして創祀
島判官自ら開拓三神の御霊代を運んだ

1869(明治2)年、明治天皇の意向により、北海道に開拓使が置かれ、蝦夷地が「北海道」と改称された。開拓の守護神として、大国魂神(おおくにたまのかみ)、大那牟遅神(おおなむちのかみ)、少彦名神(すくなひこなのかみ)の三神が祀られ、開拓民の心のよりどころとして創建されたのが札幌神社(現在の北海道神宮)だ。その創建に大きな役割を果たしたのが、開拓判官・島義勇だった。

文武に秀で人徳も優れた島義勇は、佐賀藩第10代藩主・鍋島直正に見出され、1856(安政3)年から翌年にかけ蝦夷地調査に取り組み、その記録を「入北記」として詳細にまとめていた。その実績もあり、明治に入り北海道開拓が国の重要課題となったとき、開拓判官に任命。北海道開拓の先頭に立つことになったのだ。

北海道神宮の御祭神である開拓三神の御神体は、開拓使とともに東京から函館、そして札幌へと運ばれたが、この時、雪の降る過酷な天候と悪路の中、島が自ら運んだとされている。彼の銅像は、現在の神門の手前に立っている。

開拓三神の御霊代を背負い、宮地を定めようと前を見据えている島判官の銅像。

当時まだ原野だった円山の地を、社地に定めたのも島だった。初めてこの場所を見た時の気持ちを詠んだ漢詩が残っている。「三面は美しい山が囲み、一方が平野に向かって開けている。この地形はまさしく北海道新大社にふさわしく、偶然できたとは思えない。神様が用意された土地に違いない」という内容で、「この場所をおいてほかにない」と確信したことがわかる。

札幌を世界一の都に
島の描いた都市計画は、今の札幌に息づいている

島は多くの漢詩を残している。当時からアイヌ民族が生活していた札幌に足を踏み入れ、円山の丘から石狩平野を眺め詠んだ詩は、「この恵まれた平野に府を開いたら、いつか世界一の都になるだろう」との内容。そんな高い理想と使命感を持ち、札幌の街づくりの拠点となる札幌本府建設の構想を描き、着手した。現在の南1条西1丁目を起点とし、大通りを設け、その北側に官公庁街、南側に商店や住宅を建てるという壮大な計画。防火や交通を考慮して余裕を持たせた構造も、彼の鋭い先見性が表れていた。「世界一の都に」の言葉通り、札幌の可能性を信じ、それを本気で叶えようとする情熱が見える。

とはいえ、冬の工事は困難が多く計画通りに進まず、費用もかかり過ぎた。開拓長官との意見の相違もあり、島は志なかばで開拓判官の任を解かれ、滞在わずか3カ月あまりで札幌を去ることになる。街づくりは途上で引き継がれたが、構想は随所に継承された。自然と都市が調和した、災害の少ない200万都市が今あるのは、島の情熱の賜物といえる。一方、その過程で、札幌地域に暮らしたアイヌ民族の多くが移住を余儀なくされるなどしたことも忘れてはならない。

島判官はじめ、北海道の発展に尽力した37柱が祀られた境内社「開拓神社」

神門前の銅像のほかに、島判官に縁のある場所を北海道神宮権禰宜の片石辰弥さんに尋ねると「島さんも祀られている開拓神社にもぜひお参りください」とのこと。北海道神宮には、3つの境内社があり、その一社が開拓神社。北海道の発展に尽力した先人達を偲んで1938(昭和13)年に建てられた神社で、北海道の発展に尽力した功労者37柱を祀っている。

神宮境内にある開拓神社。北海道の名付け親である松浦武四郎も祀られている。開拓精神にあやかり、成し遂げたいことがあるときに参拝する地元の人も多い。

開拓神社の祈願札。心願成就、商売繁昌、厄除け開運、恋愛成就など9種類。いずれも初穂料300円。

桜の名所のはじまりは、島判官を偲んで植えられたエゾヤマザクラ

自然がつくりだす景観も北海道神宮の見どころ。春には梅と桜が同時に開花することで有名だが、この桜にも島判官のエピソードがある。「島さんを慕っていた従者の福玉仙吉さんが、島さんを偲んで150本の桜を植えたのが、参道の桜のはじまりと言われています。境内にその由来を記した案内板もありますよ」と片石さん。島が北海道にいたのは、寒さ厳しい時期。桜を見ることはなかったが、花見客が大勢訪れるようになった現在の北海道神宮をうれしく思っているに違いない。

社殿へ続く参道の両脇を彩る桜。

北海道神宮の桜の由来が記された案内板。1875(明治8)年に福玉仙吉がエゾヤマザクラを献木したことから始まり、街の発展とともに住民からの献木が続いたそう。

冬の朝に出会う、背筋の伸びる静謐な雪景色

北海道神宮の自然は一年中参拝客を楽しませてくれるが、片石さんの一番のお気に入りは雪景色だそう。「雪が降った後の朝の北海道神宮はびっくりするほどきれいです。開門してすぐのお社は、屋根の上に雪が積もり、参道の木々の枝も白くなっている。清められるような気がして、1年で一番好きです」と教えてくれた。雪が降り積もり空気が澄んだ朝、静かで美しい境内を散歩するのもおすすめだ。

冬の北海道神宮。雪が降った朝は、早起きして出掛けてみよう。

境内で野生動物に出会えるのも楽しみ。ファンが多いエゾリスは、1年中姿を見せてくれる。

11月に新登場した「エゾリスみくじ」。陶器でできたエゾリスの中におみくじが入っている。1体500円。

焼きたてアツアツの「判官さま」を頬張り、島判官の足跡に思いを馳せる

ひと休みするなら、境内にある六花亭神宮茶屋店へ。六花亭の店舗は数あれど、ここでしか食べられない名物が「判官さま」。そう、あの島判官にちなんで名付けられたお菓子で、蕎麦粉入りの軟らかい餅で粒あんを包んだ焼きもちだ。店内で焼いているので、アツアツの焼きたてを楽しめる。サービスのほうじ茶と一緒にいただくのがおすすめ。

アツアツがおいしい「判官さま」。1個140円。今年は、島判官の没後150年を記念して佐賀県とコラボした特別パッケージ。

「判官さま」を購入するとほうじ茶がサービスされる。寒い季節はこの1杯がありがたい。

目の前で両面を焼いて手渡してくれる。

六花亭神宮茶屋店。店舗の前にベンチがあり、「判官さま」を頬張りながら休憩できる。
営業時間9:00〜16:00(季節により変更あり)

今年は、島義勇の没後150年。境内では12月31日まで佐賀県による特別パネル展示も行っている。高い志と熱い情熱で、北海道・札幌の街の礎を築いたその歩みを知れば、これまでとは違った角度から北海道神宮や札幌の街を楽しめるのではないだろうか。

Information

北海道神宮
住所:札幌市中央区宮ヶ丘474
TEL:011-611-0261
地下鉄東西線円山公園駅3番出口から徒歩15分
http://www.hokkaidojingu.or.jp/

◉開門時間
元日/0:00〜19:00
1月2日〜3日/6:00〜18:00
1月4日〜7日/6:00〜16:00
1月8日〜2月/7:00〜16:00
3月/7:00〜17:00
4月〜10月/6:00〜17:00
11月〜12月/7:00〜16:00

◉授与品・御朱印授与時間
1月2日〜3日/6:30〜閉門
1月4日〜7日/7:00〜閉門
上記以外/9:00〜閉門

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