旅先だからこそ気兼ねなく楽しめる、昼飲みにおすすめの3軒。
旅先での昼飲みは、日常からの解放感と少しの背徳感も含めて、普段真面目に働いている自分へのご褒美。暖かい季節は、ビアガーデンなど外で昼飲みを楽しめる場所が多い札幌だが、通年営業となると意外と限られている。今回は旅のシーンにぜひ足を運んで欲しいスポット3選を紹介する。
Photo:Yoshitaka Morisawa / Text:Tamaki Soga , Aiko Ichida

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タンクを眺めながら街を照らすクラフトビールを味わう
【ストリートライト ブルーイング】@桑園エリア
ビール好きなら、その土地でこそ味わえる1杯を旅の楽しみとする人も多いだろう。JR札幌駅から西へ1駅。再開発が進む桑園駅エリアに、札幌市内最大規模のブルワリー「Streetlight Brewing」はある。

タップルームから見える醸造所。タンクは、600L、1200L、2400Lと合わせて9本!
ビールを通じてつながった札幌生まれの3人が立ち上げ、2023年2月にビールづくりを開始。参考にしたのは、札幌の姉妹都市、“クラフトビールの聖地”といわれる米オレゴン州のポートランドだ。「人口60万人の都市に60以上のブルワリーがあってタップルームが併設されている。街の人が自然と集まる場所になっていて、札幌にもそういう場所をつくりたいと思いました」と、広報やタップルームを担当する宮口晃一さん。「ビールで街を明るくしたい」という意味を込め、街灯を意味する店名を付けたそう。
その願いは形になりつつあるようで、仕事帰りの近隣住民がカウンターで店員と言葉を交わしながらグラスを傾ける姿や、仲間同士で語り合う姿が見られる。子どもや愛犬連れOKという温かさも、地域に根付く理由の一つかもしれない。

倉庫を改装した店舗は天井が高く開放感がある。ポートランドに倣い、できるだけ元のものを生かし再利用することを心掛けた。
最大の魅力は、大きなタンクを眺めながら、ここでできたフレッシュなビールを味わえること。「Streetlight Brewingのビールを一番おいしく飲めるお店です」と宮口さん。ビールは常時10種類ほどあり、スッキリとした「ラガー」と、フルーティーな「エール」の2種類が定番。ほかは限定醸造で、無くなり次第新しい銘柄に変わっていく。それぞれ個性がありながらも、全般的に雑味が少なく飲みやすいのが特徴だ。「日常のどんな場面でも飲めるビールでありたいと思っているので」というがその理由。ビールマニアはもちろん、クラフトビール初心者も手に取りやすいはずだ。
地元客が多い一方、国内外からの旅行者も増えている。JR桑園駅には、昨年春から全ての快速列車が停車するようになり、空港に向かう前の1杯を味わう人も少なくないそう。

「最初の1杯はラガーがおすすめ。その後に香りの強いIPAを楽しむのもいいと思います」と宮口さん。
フードの持ち込みが自由なので、近くの札幌市中央卸売市場や、同店裏にある鮮魚店で購入した海鮮丼や寿司を持ち込む人も。北海道の新鮮な魚介と地元の香りが詰まった新鮮なビール、そんな札幌ならではのひとときは、至福の昼飲みになりそうだ。

Information
Streetlight Brewing
住所:札幌市中央区北10条西19丁目1-1
営業時間:月〜金曜15:00〜21:00、土・日・祝日12:00〜20:00
定休日:なし
https://shop.streetlight.jp/
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新鮮な刺身や焼き魚など、食堂ならではのグルメが充実
【三浦商店/ながもり食堂】@創成イースト
大通エリアや狸小路商店街に近接し、アクセスがよい二条市場は札幌を代表する観光スポットの一つ。この市場にあって、40年近くもの間愛されている「ながもり食堂」を営むのは、海産物を取り扱う三浦商店だ。地元客も多く、そのクオリティは折り紙付き。海鮮系のどんぶりはもちろんのこと、焼き魚や特製のアテなどメニューが豊富で、札幌を訪れるたびに通う旅人や出張族の常連客も多いのだそう。「明るいうちから肴をしみじみ味わいながら、飲んでいるのは道外のお客さんが多いかな。旅の醍醐味だよね」と教えてくれたのは、店主の三浦貴博さん。
店内はコの字型のカウンター席がメインで、一人でふらっと立ち寄れるのもうれしいポイント。アルコールはビール(生と瓶あり、もちろん「サッポロCLASSIC」!)と焼酎、日本酒(常温は札幌唯一の酒蔵「千歳鶴」、冷酒は旭川の「大雪の蔵」)のみ。サワー系はなし!と潔い。

刺身イカとウニをブレンドした特製「塩辛おれの永森」(350円/手前)は、“日本酒党”にぜひ味わってほしい一品。ほかにも「いか松前漬」「ニシンの切り込み」「岩のりくらげ」など小鉢料理が充実。
料理は定番以外にも春から初夏にかけてはアスパラ、秋はじゃがバター、冬は白子(たち)など、季節の地元食材を使ったメニューも登場。“酒場感”が漂う空間で新鮮な刺身や焼き魚、旬の味覚を味わうひとときは格別だ。
ちなみに朝は7時から開店しているので、“朝呑み”もOK。ほろ酔いでホテルに戻って、軽く昼寝…そんな過ごし方もたまにはいいだろう。

ししゃも(手前)と氷下魚には日本酒がおすすめ。じっくり炙ることで小さな魚も表面は香ばしく、ふっくらとした身の旨みが口いっぱいに広がる。

Information
三浦商店/ながもり食堂
住所:札幌市中央区南3条東1丁目8
営業時間:7:00〜14:00
定休日:火曜日
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作家・渡辺淳一の文学を感じながら嗜む昼酌(ひるしゃく)
【渡辺淳一文学館 喫茶コーナー】@中島公園エリア
小説『失楽園』『愛の流刑地』『光と影』など、数々のベストセラーを生み出した北海道出身の直木賞作家・渡辺淳一(1933-2014)。彼の文学と創作活動の軌跡を展示・紹介する文学館が開館したのは1998年のこと。2階には幼少期からのエピソードを物語る秘蔵品や直筆の原稿(病に伏すまでは原稿用紙に手書き、病状が悪化すると口述筆記で作品を仕上げたという)、写真などさまざまな資料を展示する常設展示室と、テーマごとに渡辺文学を掘り下げて紹介する特別展示室が設置され、ファンならずとも見どころの多いスポットだ。
しかし、ここで昼飲みとは少々場違いな感じもするが…。「コロナ禍に足を運んでいただくきっかけになればと、スタッフみんなで知恵を絞って始めたのが“昼酌セット”です。渡辺先生の作品に囲まれてのんびり飲むもよし、好きな本を持ち込んで読書を楽しみながら飲むもよし。静かな空間で昼飲みを楽しんでいただけたら」と話すのは、館長の平岩堅志さん。“昼酌セット”は「本日のクラフトビール」「サッポロ CLASSIC」ほかスパークリングワインや角ハイボールなどの中から2杯と、ナッツや厚切りポテチなどおつまみ1品がついて1,600円。渡辺淳一の全著作のほか、この文学館の建物を設計した建築家・安藤忠雄の作品集など、吹き抜けの天井まで壁一面に広がる書架が圧巻の図書室内喫茶コーナーで味わえる。
雪が解けて暖かくなると、建物前にテラス席も登場する(GWころ〜)。「中島公園の横なので、犬の散歩ついでに、ランチを食べながら昼酌を楽しむ方もいます。気持ちいい風に吹かれて、軽く飲みたいなぁという時におすすめですよ」。喫茶コーナーのみの利用なら、ドリンクまたは軽食をオーダーすれば入館料は無料(2階を見学する場合は有料)。静謐な空間で、一味違う“昼飲み”を楽しんでみてはいかがだろうか。

Information
渡辺淳一文学館 喫茶コーナー
住所:札幌市中央区南12条西6丁目414
営業時間:9:30〜18:00(11〜3月は〜17:30)
※喫茶コーナーのL.O.は閉館30分前
休館日:月曜日 ※祝日の場合は翌日休館