札幌とジビエ
2024.11.06

ハンター&料理人に聞く!北海道ジビエ「エゾシカ」のススメ

このところ、ジビエとしてのエゾシカ肉が脚光を浴びている。高栄養価に加え、シンプルにその「おいしさ」がグルメたちを魅了しているのだ。人気の料理研究家でハンターの青山則靖さんに、エゾシカ肉の魅力と可能性を聞いた。札幌でおすすめの店2軒にも注目!

Photo: Ryoichi Kawajiri / text: Masaki Narita

幼い頃から慣れ親しんだエゾシカ肉を
もっとたくさんの人に食べてもらいたい。

飲食店などのメニュー開発に携わる一方、テレビ番組やイベント、料理教室などで道民におなじみの「青ちゃん」こと料理研究家の青山則靖さん。有名なハンターを父に持ち、幼い頃からエゾシカ肉に慣れ親しんできた。「冬になると家族6人では、食べきれない量の肉がありました。個体によって味が全然違うことや、クリームシチューのようにエゾシカ肉には合わないメニューもあることなどを、食べながら自然と学んでいましたね」。料理の道へ進んだ青山さんはエゾシカ肉の普及活動にも積極的。自らもハンターとして山に入り、年間5頭前後を狩猟している。

ハンターとして活動する背景には、もう一つの理由がある。それはエゾシカの個体数の急増による社会問題だ。「北海道が考える適正なエゾシカの生息頭数は35万頭と言われていますが、おおよそ73万頭はいると推定されます。それほど多くのエゾシカを道内のハンターでどう駆除していくか、それが大きな課題です」。

冬山でエゾシカ猟に向かう青山さん。

増え続けることで害になるエゾシカを
おいしく食べることで頭数を減らしたい。

エゾシカ肉の特徴は一口では言い表せない、と青山さんは言う。「オスとメスとではまったく肉質が違うし、個体の年齢によっても風味が変わります」。本来、その違いを楽しむのがジビエなのだが、残念ながら日本ではそこまで理解が深まっていない。「日本で肉といえば均一化された家畜肉ですから。そうではない野生のエゾシカ肉の面白さを知ってもらいたいですね」。昔はハンターが山でエゾシカを捌いていたが、今では北海道の「エゾシカ肉処理施設認証制度」により、マニュアルに基づいて衛生的に処理されたエゾシカ肉が提供されるようになっている。

認証されたエゾシカ肉のもも肉と一緒に。

高タンパク低脂肪のエゾシカ肉はアスリートにも人気。

「昔はエゾシカ肉を単体で料理していました。でも今では、豚肉との合挽きでハンバーグにしたり、おいしい食べ方が分かってきている。身近な存在として認知され始めているんですよね」。長くエゾシカ肉の普及のために、尽力してきた青山さんは、明らかに数年前とはフェーズが変わってきたと感じているそう。「みんなでおいしく、たくさん食べる。これがエゾシカ問題の一番の解決策ですね」と明快なビジョンを描く。

エゾシカ肉のミートソースの商品化も進行中だという。

増えすぎたエゾシカによる被害が全道で問題になっている。エゾシカと人間が共生する社会づくりのためにも、生息数のコントロールは不可欠だ。

みんなでもっともっと食べる、
それがエゾシカ対策の最適解。

海外の例では、増えすぎたシカの被害に悩まされていたニュージーランドで、ヨーロッパに輸出したところブランド肉として人気を博し、今では牧場で飼育するほどになったという。「エゾシカ肉のニーズが増えれば、専門のハンターも増えて狩猟頭数も増える、つまりビジネスとして回るようになることがポイントです」。ラム肉=ジンギスカンのように、エゾシカ肉といえばコレという定番のメニューができれば、エゾシカ問題もすぐに解決するかもしれない。

日本食品標準成分表に掲載され、給食のメニューにも使えるように。

項目は「にほんじか」だが、その亜種のエゾシカも含まれている。

また、青山さんの活動の一つに「エゾシカ食堂」がある。市内のカフェを間借りして、青山さんオリジナルのエゾシカ料理を出すイベントで、月に1回のペースで開催されている。ランチではボロネーゼのホットサンドが一番人気で、夜にはお酒に合うエゾシカ料理が提供される。気になる人は、青山さんのインスタグラムをまめにチェックしよう。

エゾシカ肉の味を均等化するためにもひき肉が一番と語る青山さん。

粗挽きのエゾシカ肉のしっかりとした旨みが味わえるホットサンド。

本場のフランスで磨いた腕で
北海道のジビエを絶品の一皿に。

札幌市内でエゾシカを味わえるおすすめのお店を尋ねると、一番に挙げてくれたのが〈ゴーシェ(gaucher)〉。店主の小鹿陽介さんもハンターで、ジビエを扱わせたら日本でも指折りの料理人だ。それもそのはず、本場フランスで料理や猟を学んでいる。「修行していたバスク地方は、特に山鳩の料理が盛んでした。シーズンになると、シェフが猟で獲ってきた山鳩を料理して出すのですが、自分でもそんなスタイルでやりたいと思ったんです」と当時を振り返る。帰国後にはすすきののジビエビストロ「パロンブ」に招かれ、狩猟免許も取得して念願のハンターシェフとなった。

シェフとハンターの二刀流で活躍する小鹿さん。

店内には熟成中の山鳩や鴨などもディスプレイされている。

小鴨と真鴨は小鹿さんが自ら狩猟してきたもの。

9年前に独立して開店した〈ゴーシェ〉でも、肉の魅力が存分に味わえる「エゾシカのロティ」が看板メニュー。溶かしバターをまとわせながら50分ほどかけてじっくりと焼き上げられる。ジビエを調理する難しさについて小鹿さんに問うと「どの肉とも一期一会で、毎回勝負みたいなところがあるので、それが面白さでもあります」と笑った。「骨で出汁をとったり内臓をソースにしたり、大事なジビエを無駄にしないようにいろいろ工夫してやっています」。

一年中ジビエが食べられる貴重な店としてグルメに知られる。

エゾシカのロティ2人前(取材日価格3,500円・税込)。

黒板の中から前菜とメインをそれぞれ1〜2点チョイスするアラカルトスタイル。ジビエに合うナチュラルワインにもこだわっている。

一方、ハンターとしての小鹿さんの信条は「できるだけ苦しませないように狩ること」だ。その土地が育んだ野生の肉を食べる、つまり、命をいただくということに日々向き合っている。ジビエが初めてという人は、クセのないエゾシカ料理をオーダーしてみてほしい。

調理の際には食材への感謝の気持ちを大事にしているそう。

テーブル席に加えてカウンター席もある落ち着いた店内。

道産食肉のプロショップで
お土産に選ばれているエゾシカ肉。

札幌市内でエゾシカ肉が入手できるお店が「エルムの山麓」。すすきのの新しいランドマーク「cocono susukino(ココノ ススキノ)」の地下にある、道産食肉のプロショップだ。エゾシカ肉の認証処理場も持つ食肉会社の直営店だけあって、自社生産の肉や加工品が豊富に揃う。「売上額では牛肉がトップですが、数としてうちで一番出ているのはエゾシカ肉ですね」と語るのは取締役の黒島俊也さん。

北海道産食肉のプロフェッショナル・黒島さん。

飲食店などで使われる多彩な食肉が小売りされている。冒頭に出てきた料理研究家の青山則靖さんも通う店。

「もともとはこの界隈のプロの料理人をターゲットに出店したのですが、観光のお客様も予想以上に多いですね」。観光地すすきのという立地らしく、カニなどの海鮮に代わる新しい北海道土産としてエゾシカ肉を選ぶ人が増えている。「欧米からの観光客にもエゾシカ肉は人気です。ゲストハウスなどのキッチンで焼いて食べる方もいらっしゃいます」と黒島さん。店内にはエゾシカ肉の説明POPもあるので、それを見ながら衛生的にパックされたさまざまな部位をチョイスするのも楽しい。

エゾシカ肉だけでも10種類ほどの部位が並ぶ店頭。

エゾシカ肉の近くにはわかりやすい説明のPOPが。

店内の一角にあるイートインコーナーでも、エゾシカ肉のロースを低温調理した「エゾディッシュ」が一番人気。ソーセージやジャーキーなど、エゾシカ肉の加工品も豊富に揃っている。黒島さんは「お料理好きの人なら、うちの品揃えにきっとワクワクするんじゃないかと思います。おいしいエゾシカ肉をおいしく料理する方法もお教えしますよ」とニッコリ。おいしいだけではなく、高タンパクで鉄分が豊富なエゾシカ肉は、これからどんどん注目が高まることだろう。札幌を訪れて味わったり、肉や加工品をお土産にしたり、魅力いっぱいのエゾシカを先取りするなら今のうちだ。

ソーセージなどの加工品はエゾシカ肉初心者におすすめ。

エゾシカのカルパスやジャーキーは最高のおつまみ。

Profile


青山 則靖(料理研究家・フードプロデューサー)
あおやま・のりやす/1973年帯広市生まれ。飲食店などのメニュー開発の傍ら、テレビ番組やイベントなどで料理のお悩みに応える料理法を伝授して人気を博す。2006年「キッチンサポート青」を開業。幅広く飲食に携わる事業を展開する一方、ハンターとしてエゾシカを狩猟するとともに「一般社団法人エゾシカ協会」の監事としてエゾシカ肉の普及にあたっている。
@noriyasuaoyama

Information

ゴーシェ (gaucher)
住所:札幌市中央区南3条西8丁目7 大洋ビル2階
TEL:011-206-9348
営業時間:17:00~22:00(LO21:00)

エルムの山麓
住所:札幌市中央区南4条西4丁目1-1 cocono susukino B1F
TEL:011-211-4529
営業時間:10:00~21:00
https://www.aimaton.info/

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