ユニフォームが街やチームを変える。相澤陽介が北海道コンサドーレ札幌にかける思い
2025年、北海道唯一のJクラブ、北海道コンサドーレ札幌は9年ぶりとなるJ2での戦いを展開。1年でのJ1復帰を目指し、選手は今季用の新ユニフォームで毎週末の決戦に挑んでいるが、実はこれらを手掛けたのはファッションデザイナーの相澤陽介さん。クラブの運営会社で取締役も務める相澤さんに、コンサドーレとの深い関わりについて聞いてみた。
Photo:Shu Yamamoto text:Takashi Osanai

北海道コンサドーレ札幌の経営に関わり
5年目の春がやってきた。
北海道コンサドーレ札幌は北海道をホームタウンにするJ2のプロサッカーチーム。ここにクリエイティブディレクターとして関わるのが、ファッションデザイナーの相澤陽介さんだ。自身のブランドでパリファッションウィークに参加したり、ホテルのプロデュース、大学の教授、海外ブランドのディレクションなど幅広く活躍する一方、コンサドーレの取締役という顔も。そのキッカケと実際の関わり方について聞いてみた。
もともとがフットボール好き。海外での試合観戦経験も豊富だ。以前仕事をしたブランドはイタリアの名門クラブ、インテルミラノのアパレルサプライヤーで、イタリアへ渡航するたびスタジアムでの観戦を満喫。英国ニューカッスルに本社がある会社と仕事をしたときも同様で、渡英の際にはニューカッスル・ユナイテッドFCの試合をはじめ、本場のフットボールを堪能したという。

東京・代官山にあるアトリエにて、デザイナーで株式会社コンサドーレ取締役の相澤陽介さん。ファッション、スポーツ、ビジネスをバランス良く形にできるデザイナーはなかなかいない。
「地域性が色濃く表出するローカリズムがすごく面白かったですね。英国ニューカッスルの会社のデザインチームは5人いたんですが、そのうちの2人がニューカッスルのホームゲームを絶対に観に行かないんです。というのも1人はミドルズブラ、もう1人はサンダーランドという永遠のライバルチームがある街の出身だから。親の代どころかその前からの憎きライバルという感じで、僕は観たいからスタジアムに入りましたけど、彼らは終わるまで外で待っていました」
そんな“おらが街のクラブ”を深く愛する諸外国の熱狂的サポーターやサッカー事情が興味深くて、折を見てSNSにつづっていると、国内のフットボール雑誌からローカリズムをテーマとする特集制作の依頼が届いた。そして参画した雑誌が発売されると……コンサドーレの関係者が目にして「札幌もローカルですし、何かご一緒できませんか?」と相談の連絡があったのだという。
「連絡をもらった時点で、面白いかも、と前向きでした。早々に当時の社長だった野々村芳和さん(現Jリーグチェアマン)ともお会いできて、“クリエイティブディレクターをやってほしい”という声をいただいたんです。早速ユニフォームのデザインをしたいと思っていましたが、まずはポスターやグッズから。3年目からユニフォームを含めた、僕が“アウトプット商材”と呼ぶモノのデザイン監修をしています」
アウトプット商材とは、ユニフォームやポスター、マーチャンダイズ用のグッズ、電車内の吊り広告、チームを紹介するパンフレットなど世に出すクラブ関連の創作物。相澤さんは、これらすべてに目を通しているという。先述した通り日常は十分に多忙。それでもオファーを二つ返事で引き受けた。

アウェイの試合会場は東北・北陸・関東の各地区から九州の熊本・長崎まで。国内のあらゆる地域に北海道の文化を背負い戦いに行く。
「コンサドーレに大きな可能性を感じたんです。札幌は200万人都市でJリーグクラブにライバルチームもいませんから、今よりもっとコンサドーレを愛するファンを増やせるだろうと。グッズやユニフォームがそのきっかけになればと思いました」
販売力が強まれば、それだけ売り上げを強化費などに充てられる。チームが強さを増せばファン獲得はさらに進む。チーム運営に好循環を生み出せるのだ。実際に取締役就任から5年が経ち、それ以前と比べユニフォームの売り上げは約2倍に。そして今季用のユニフォームにも、道民の自尊心をくすぐるアイデアを込めたという。
ユニフォームに袖を通すたび、
北海道の伝統と未来を背負う。
ボディのパターンメイキングから携わるユニフォームは佇まいを一新。昨年までコンプレッションウェアのようにテクニカルな雰囲気だったデザインをシンプルに。その意図はアウェイ用のユニフォームに顕著となる。
「アウェイで使う2ndと3rdのボディには北海道アイヌ協会優秀工芸師、早坂ユカさんにお願いをして、ユニフォームのために描き下ろしてもらったアイヌ文様を乗せました。パターンをミニマムにしたのも、ユニフォームをキャンバスと捉え、文様を最大限に活かしたかったから。そもそも文様学はテキスタイルを専攻していた大学時代から好きでした」
けれど民族の伝統を色濃く反映しているからこそ文様だけ、衣装だけをデザインとして使う“良いとこ取り”のようなやり方は、文化の盗用とも言える。大学教授の立場を持つ相澤さんも互いをリスペクトする道筋を踏むべきだと生徒に教えてきた。結果、北海道アイヌ協会をはじめとする関係者、自治体を交えてプロジェクトは展開。形となるまでに2年の時間が必要となった。
創作に触れて「アイヌ文様が興味深いと感じた理由は、文様の1つずつに意味があるのですが、それが集まって一つの絵柄になったときに、似ているように見えても、描き手やその組み合わせによって意味が変化するということです」と相澤さんは振り返る。「沖縄の文様には海を表現する柄があるように、何かしらの意味を持つものが多いですよね。でもアイヌ文様は、長く紡がれてきた文化や伝統を継承しながら、いざ描くときは、前夜にふと思い浮かんだ図案をそのまま表現するらしいんです」と、初めて触れる創作過程に刺激を受けた。
そして仕事は、早坂さんによる文様と、入れるべきスポンサーの社名やロゴがそれぞれ独立して機能し、かつユニフォームとして1つの世界観が生まれるようにデザインすること。エンブレムが乗る左胸部分など、規定等でどうしても文様と重なってしまう箇所が生じた場合は、そのつど会話を重ね、理解を得ていった。伝統を敬い、プロジェクトに丁寧に向き合い、地域に根ざすコンサドーレの未来を思い完成したのが、今回のユニフォームなのだ。
世界を見ている相澤さんだからできる
仕掛けとは?
纏うことで、北海道を背負う意識と、戦う意識を強める。それだけの存在感をフットボールのユニフォームは放てることを、コンサドーレはシーズンを通して証明していく。特に北海道の伝統文様を背負う敵地で、勇猛果敢に戦う選手たちの姿を通し、サポーターにクラブや選手に対する愛情の深まりと自身の自尊心向上を促したいと、相澤さんは考える。
対するホームゲーム用のユニフォームにも道民の心をくすぐるデザインを反映。「北海道の魅力を世界に発信したい」という想いから、北海道の美しい湖、流氷、紅葉などの景色と、チームのマスコットであるシマフクロウの写真を、アーティストの河村康輔がコラージュ。赤黒の縦縞に見事に落とし込んだ。それは豊かな大自然を身近に感じられるクラブのアイデンティティを表現したものと言っていい。
そんな赤×黒の縦縞ユニフォームに埋まる本拠地は3万人超を収容する大和ハウスプレミストドームだ。札幌駅から地下鉄利用で20分ほどとアクセス至便なスタジアムはJクラブ唯一のドーム型で、凍てつく冬も30度越えの夏も快適に観戦できる。また反響しやすい形状から、特にゴール裏では大歓声をサラウンドで味わえるのも特徴。盛り上がりの熱さは本場の欧州サッカーを観てきた相澤さんも驚くほどだという。
だからこそ相澤さんは夢を抱く。いつか、スタジアム内の熱気が広く伝播し、市内がユニフォーム姿に溢れる日のことを。その光景を生み出したいと、強く思うのだ。
PROFILE

相澤陽介(ファッションデザイナー/北海道コンサドーレ札幌クリエイティブディレクター)
あいざわ・ようすけ/埼玉県出身。自身のブランド、ホワイトマウンテニアリングを手掛ける一方、モンクレール、バブアーなど他ブランドとのプロジェクトにも意欲的に参画。ロンドン五輪では日本代表団の公式ウォームアップスーツをデザインした。2019年に北海道コンサドーレ札幌のクリエイティブディレクターに就任。ユニフォームやグッズなどを手がけ、より多くの人に愛してもらえるクラブ作りに貢献している。
INFORMATION
北海道コンサドーレ札幌:https://www.consadole-sapporo.jp/