札幌と酒
2024.09.30

北海道大学のキャンパス内で道産ワインをテイスティング!一般開放日をチェックしよう。

道産ワインの研究拠点「北海道大学 北海道ワイン教育研究センター」が今年9月より週4日、一般開放をスタートさせた。新たに立ち上げた「北大ワインテイスティング・ラボ」では北海道のワインを有料で試飲できるほか、専門知識を持つソムリエやワインエキスパートが常駐し、聞けばワインの味わいや魅力をたっぷりと語ってくれる。札幌で愉しむ、北海道ワインツーリズムの第一歩はここから始めてみるといいかもしれない。

Photo: Yoshitaka Morisawa / text: Aiko Ichida

北海道ワインバレー構想の要となる研究拠点
「北海道大学 北海道ワイン教育研究センター」

北大の正門からキャンパスを直進すると、ロータリー越しに白とエメラルドグリーンの配色が目を惹く洋館のような建造物が見えてくる。その美しい佇まいを収めようと、散歩中のご近所さんらしき人や観光客がカメラを向けていた。この建物こそが道産ワインの研究、人材育成、魅力発信を目的に設立された「北海道大学 北海道ワイン教育研究センター」の拠点となっている場所だ。

北大は2015年ごろから、同センター長を務める曾根輝雄さん(北海道大学大学院農学研究院 教授)を中心に、北海道におけるワインの産業振興に携わってきた。2021年4月にニトリやコープさっぽろなど地元企業からの寄付を受け、「北海道ワインのヌーヴェルヴァーグ研究室」を開設。ちなみに北海道ワインアカデミー(北海道経済部食関連産業局食産業振興課 主催)に講師として参加するなど、その動きも本格的だ。

北大キャンパス内クラーク像の斜め向かいに位置する「北海道大学 北海道ワイン教育研究センター」。築120年の建物をリノベーションし、再利用している。

「北大ワインテイスティング・ラボ」の天井は建てた当時の梁をそのまま残し、見える形で補修。歴史的建造物ならではの趣を感じられる。

総合大学である北大が北海道のワインの産業振興に携わることによって、各学部それぞれの専門分野を活かし、環境整備から栽培、醸造、瓶詰め、販売のプロセスにおけるさまざまな課題に向き合い、解決する。そんな志を持つ教員たちが集い、前研究室の次の段階として2022年4月に立ち上げたのが、北海道大学 北海道ワイン教育研究センターだった。

しばらくはグループとして活動を続けていたというが、曾根さんいわく「いずれ拠点を持つことは考えていました。そんな時、たまたまかつて昆虫学・養蚕学の学び舎として使われていたこの建物を改修する計画と、その後の使い道をどうするかという話が大学内で持ち上がったんです。僕自身は将来的にセンター内にテイスティングができる場をつくりたいと考えていたので、札幌駅からのアクセスが良いこの場所は、皆さんが気軽にワインを楽しんでもらえる場として最適だと思いました。いろいろと良いタイミングが重なりましたね」と振り返る。こうして旧昆虫学及養蚕学教室は120年の時を経て、2023年秋にリノベーションを終え、北海道大学 北海道ワイン教育研究センターの拠点として新たな一歩を踏み出した。

北海道大学 北海道ワイン教育研究センター長の曾根輝雄さん。専門分野である応用微生物学の知識を活かし、ワインの製造過程における微生物動態の解析などの研究にも取り組んでいる。曾根さんの物語も記事末に。

道内各地のワインをテイスティング
北大で栽培した葡萄や林檎で造られた希少ワインも

左から余市町の平川ワイナリー「モルゲンリッヒ ロージゲム シャイン(ばら色の朝日)」、札幌市のさっぽろワイン「ソービニオン・ブラン」、北大の余市果樹園で栽培されたリンゴを使ったシードル「玲瓏」。

ここ数年で観光事業や農業への波及、マーケティング、流通販路の拡大などにより、北海道が名実ともにワインバレーとなる道を切り拓く中で、北海道大学 北海道ワイン教育研究センターでは産学官連携による道産ワインの研究はもとより、次なるステップを踏んだ。今年9月から毎週金・土・日・月曜の4日間、北海道産ワインを有料で試飲できる「北大ワインテイスティング・ラボ」をスタートさせ、誰でも気軽に道産ワインに触れることができる機会を創出したのだ。拠点を設けて以降、北海道産ワインの教育研究やプロモーションを目的としたセミナーやイベントを実施しながらさまざまな人たちと接点を持ってきたが、拠点を一般に開放し、予約なしでテイスティングを愉しめる場を提供するのは、初めての試みだ。

さっそくテイスティングを……と現地を取材。

試飲の流れ

受付にてコイン3枚を1500円で購入(カードまたは電子決済のみ・現金不可)。テイスティング専用のグラスを受け取る。1杯に注がれる分量やテイスティングを行う上でのルールについて説明を受ける。

ワインのラインナップが記されたシート。なるべく道央・道南・道北・道東各エリアのワイナリーからバランス良くセレクトしているのだそう。

コイン式ワインサーバーにコインを投入し、テイスティングしたいワインを選ぶ。

サーバーには12種類のワインが並び、中には北大の余市果樹園で採れたブドウを使ったワインも。選んだワイン上部のボタンを押すと、定量のワインがグラスに注がれる。

ラボの運営はNPO法人ワインクラスター北海道に委託。ソムリエやワインエキスパートが常駐している。言わずもがな道産ワインについての造詣が深く、それぞれのワインの味わいやブドウの品種、ワイナリーの情報など聞けば、大抵のことは教えてくれる(蘊蓄が聞きたくて順番待ちをしている人もいるほどだ)。

試飲後、アンケートに答えると、オリジナルポストカードなどが貰える特典も。回答はワインの化学成分と嗜好性の関係の研究に役立てられる。

センター内に足を踏み入れると、天井が高く解放感のある空間が広がる。受付をしてコインとグラスを受け取り、12種類のワインが並ぶ2台の大きなワインサーバーの前に。コイン1枚で1種類のワインを飲める。北大の余市果樹園のリンゴを使ったシードルは、ワインエキスパートの吉川智仁さんが直接グラスに注いでくれた。「テイスティングをしながら、専門的な知識や新しい情報を得られるのは、ラボならではの魅力です。運が良ければ北大で栽培した葡萄で造られた希少ワインと出合えることもあって、面白いですよ。ここはワインで北海道を旅する場所。全道各地のワインに触れるきっかけになれば」と吉川さん。この日はスーツケースを携えた旅人や、夫婦で散歩ついでに立ち寄った人たちが訪れ、ワインを手に豊かな時間を過ごしていた。

道産ワインについてはもちろんのこと、昆虫学及養蚕学教室として使われていた建造物そのものの歴史的価値や魅力について説明する展示も。

「北大ワインテイスティング・ラボ」開館(一般開放)時間については記事末に。

北海道大学 北海道ワイン教育研究センター長が描く
道産ワインと産業振興の未来予想図

余談だが、これまで道産ワインの教育研究に尽力し、初代センター長となった曾根輝雄さんについて少しだけ触れておこう。曾根さん自身、ワインをこよなく愛する一人だが、ワインとの出会いは少年時代に遡る。

静岡県出身で、実家は酒屋(商店)を営んでいたという曾根さん。「僕が小学校3年生の時(1979年)、父が“これからはスーパーやコンビニでもお酒が買えるようになる。それならば特徴を出そう”と、まだ町の酒屋さんではほとんど見かけなかったワインを仕入れることになりました。それをきっかけに父が最初に始めたのが、地下を掘ること。ワインを保管するセラーが必要だと、形から入ったんですね(笑)。それが強烈な印象として残っていたせいか、心のどこかにワインへの興味があったのだと思います」と笑顔で語ってくれた。

大学入学後、しばらくしてワインの研究に取り組み始めた曾根さんは北海道のワインを知り魅力に触れるたび、その可能性に心を弾ませた。 「ワインの生産には気象学、土壌学、栽培学、醸造学、農業工学、農業経済学など自然科学分野のほか、社会科学分野を含むさまざまな学問の分野が包含されます。ワイン産業の持続的な発展のためには、これらの学問分野を融合した教育研究と人材育成が必要です。

僕自身、研究分野から産業の一端を担うこともできましたが、北海道は現時点で醸造よりもブドウの栽培やワイナリーを始めるための環境整備、土壌づくりが大事だとわかってきました。それならばと仲間を増やし、今はワインづくりやプロモーションに関わる活動も並行しています」

センター裏手にある旧昆虫標本室もワイン庫として再利用。

「いずれは道内の生産者から商品を預かり、保管することで価値を高めるワインバンクを実現したい」と曾根さん。

現在、道内には67のワイナリーがある。2030年までにその数は100を超えるだろうと曾根さんは予想する。「今は全道各地でさまざまな品種のブドウを使ってワインが造られているけれど、もう少ししたらそれぞれの土地の性質を反映したワインができてくるはず。各ワイナリーらしいワインが地元の食とつながり、そこでしか味わうことのできない料理とのマリアージュを楽しめるようになれば、北海道のどんな地域でもその味を求めて世界中から人がやってくるという姿を思い描いています。

個人的にはワインと食と温泉をつなげたいと思っていて、それが実現すれば雇用も創出できます」と夢は大きい。現在、北大では大学院生向けにワインの講義も行っていて、毎年100人ほどの学生が履修登録をしているのだという。北海道におけるワイン産業の持続的な発展のために、北海道大学 北海道ワイン教育研究センターが担う役割はますます重要になりそうだ。

Information

「北大ワインテイスティング・ラボ」開館(一般開放)時間
金曜日:12:00~19:00(LO18:30)
土曜日:10:30~16:30(LO16:00)
日曜日:10:30~16:30(LO16:00)
月曜日:10:30~15:00(LO14:30)
※20歳未満の方はテイスティングできません

北海道大学 北海道ワイン教育研究センター
〒060-8589 北海道札幌市北区北9条西8丁目 (ワイン教育研究センター棟)
E-mail:winec@agr.hokudai.ac.jp

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