これを読めば旅がもっと楽しい。ジモトの小さな書店がおすすめする札幌本10冊
旅は、読書と相性がいい。旅前、空港の待ち時間、機上で、電車にゆられながら、帰宅後……。そんなちょっとした時間は、読書を楽しむのにもってこいだ。今回は札幌の小さな書店「Seesaw Books」が、旅にぴったりな本を紹介する。お気に入りの本を携えて出かける札幌の旅は、きっと何倍も素敵な思い出になるはず。
Photo: Yoshitaka Morisawa / text: Seesaw Books
マンションやビルに囲まれた都市の一角にひっそりと佇む、小さな書店「Seesaw Books」
店内には温もりを感じる木製の書棚が並び、旅、アート、暮らし、料理、ジェンダー…と多彩な本が、テーマ別にわかりやすく陳列されている。さらに一般書籍以外にも各地のZINE(個人やグループが自由に制作する冊子)を数多く取り揃えるほか、スタッフ推しの一冊に添えられたPOPやカラフルなフライヤーにも独自性が“香る”。2021年のオープン以来、本好きの心をくすぐり、札幌の新たなカルチャーの発信拠点として注目されてきた「Seesaw Books」のスタッフが旅前、旅ナカにおすすめしたい書籍とは…。真摯に、真面目に、かつユニークな視点でセレクトされた10作品を紹介。
【Recommended Book.1】
『さっぽろ歴史&地理さんぽ』(亜璃西社)
1,980円
「札幌」がアイヌ語を語源とした「サツ・ポロ」(=乾いたところ〈干潟〉が多い川)という意味の地名だということを知っているだろうか(※)。本書は、札幌各地の地名から歴史を紐解き、その土地のエピソードとともに紹介している。例えば、札幌のシンボルの一つである大通公園は、もともと北部の官地と南部の民地を分ける空閑地だったという。ただ、空閑地だったからこそ博覧会の会場や市民の運動場など多種多様に利用され、戦後に公園としての整備が進み、現在にいたる。土地の歴史を知ることは、札幌の旅に奥行きを感じさせてくれる。
※記載の所以が有力とされるが、諸説あり。『札幌の地名がわかる本』(亜璃西社/増補改訂版)171ページから引用
【Recommended Book.2】
『北の麦酒ザムライ』(集英社)
704円
市内には、サッポロビール博物館、札幌開拓使麦酒醸造所など、ビールに関わる観光名所が多い。それもそのはず、日本人による初のビール醸造所は札幌で造られ、それが後のサッポロビールとなったという歴史があるのだ。本書は当時の中心メンバーである村橋久成を主人公に、開拓使麦酒醸造所の開業までを描いた歴史小説である。数多の困難を乗り越え、ビール造りに生涯を捧げた彼らのロマン溢れる物語は、サッポロビールを飲むたびに思いを巡らせずにはいられない。
【Recommended Book.3】
『札幌乙女ごはん。』(Dybooks)
1,100円
ジンギスカン、スープカレー、海鮮料理…札幌といえば「食」をイメージする人も多いだろう。本書はそんな札幌の料理を食べ尽くすグルメマンガ。特筆すべきは、実在するお店の料理が紹介されていることだ。マンガを読んで「おいしそう!」と思ったお店に、そのまま足を運んで舌鼓を打つことができる。紹介されているお店も、地元民に愛される焼き鳥屋や喫茶店など納得のお店ばかりなので、札幌に足を運ぶ前に予習としてマンガを楽しんでみては。
【Recommended Book.4】
『北海道大学もうひとつのキャンパスマップ』(寿郎社)
1,760円
札幌の中心部に広大な土地を持って広がる北海道大学。緑豊かなキャンパスは談話する学生や散歩を楽しむ人々で常に活気がある。本書ではそんな北海道大学の「もうひとつのキャンパスマップ」と称し、大学の来歴や出来事を紹介している。それは決して明るいものばかりではなく、読んでいて痛みを伴うものも少なくない。ただ、それらを知ることで平面上にあった北海道大学が立体的に立ち上がってくる。旅には新しい発見がつきものだ。本を読むことは、その発見を多面的に捉えるきっかけになる。
【Recommended Book.5】
『アイヌからみた北海道150年』(北海道大学出版会)
1,760円
「北海道150年」と聞くと、開拓時代のロマンや夢のようなものが想起され、ポジティブな捉え方をする人も多いだろう。しかし一方で、150年という年月はアイヌ民族にとっては受難の歴史でもあった。札幌近郊にも随所に開拓の歴史を体現する建築物や石碑などがある。もし旅行中にそうした場所を巡る機会があれば、この本に書かれている一人一人の言葉たちに想いを巡らせてみてほしい。次の50年、100年後の未来のために。
【Recommended Book.6】
『新装版 動物のお医者さん』(小学館)
各770円
大ヒット作品として、よく知られているこちらのマンガ。舞台は、当店にも程近い北海道大学の獣医学部だ。作中にちりばめられたさまざまな“札幌あるある”をぜひ現地で追体験してほしい(聖地巡礼する人も多い)。何より、ギャグマンガとしてもクールだし、人や動物の描き方に誠実さを感じるエバーグリーンな作品だ。
【Recommended Book.7】
『石狩少女』(筑摩書房)
880円
1940年に刊行された、著者・森田たまの半自伝的長編小説で、舞台は明治末の札幌。北海道・札幌といえば、はじめに雪景色を思い浮かべる人が多いかと思うが、この小説には、札幌のあっという間に終わってしまう夏の美しさと切なさが見事に描き出されている。この地の独特な風景を背にした「文学少女」、そして一人の人間としての成長譚。時代にかかわらず心掴まれる小説だ。
【Recommended Book.8】
『探偵は教室にいない』(東京創元社)
704円
舞台は札幌市西区発寒の中学校。中学生男女4人と不登校の少年の日常を描く、鮎川哲也賞受賞作のミステリー小説である。札幌に旅行に来た人は、なかなか発寒には行かないだろう。だが、雪の降る前のソワソワした感じなど、札幌の日常の空気感を描いた文章が秀逸で一読の価値あり。ミステリーとしても面白く、中学生が大切な謎と向き合う、爽やかな青春を味わえる。旅行中に読んだら、いっそう楽しんでもらえるはず。
【Recommended Book.9】
『改訂版 さっぽろ野鳥観察手帖』(亜璃西社)
2,200円
世の中に野鳥図鑑はたくさんある。世界の野鳥、日本の、北海道の、とエリアを絞り込んでいけばいくほど、現地での使い勝手は良くなっていくものだ。本書は、札幌圏の緑地公園で比較的普通に見られる野鳥を紹介しているため、野鳥観察や散歩のお伴には最適な図鑑である。300ページ近いボリュームで123種を収録しており、鳥たちの暮らしぶりや生態が、詳しく紹介されているのも魅力。大都市でありながら、北海道の大自然の一部である札幌。その豊かさが見えてくる図鑑である。
【Recommended Book.10】
『札幌建築まち歩き』(エイチエス)
1,760円
札幌の街を歩いていると、目を惹く建築に行き当たることがけっこうある。注目すべきは、古い建物が和風建築ではないことだ。洋館であったり、和洋折衷様式であったりして、趣を感じられる。これらのモダンな建築を、竹中工務店 北海道支店で設計部長の肩書を持つ建築家さこうのぼるさんが端正なイラストとともに紹介した、佇まいの良い本である。いっそのこと、本書のみを頼りに札幌を観光してみるのも一興かもしれない。きっと心に残る旅になるだろう。
ここまで、札幌旅を彩る本を紹介してきました。自分好みの本で知識を得る旅に出て、その後に実際に街を巡れば、もっと札幌が好きになって何度でも訪れたくなるはず。
Seesaw Books
北海道札幌市北区北18条西4丁目1-7
店長の窪田託也さん。静かな語り口の中に本への愛情がたっぷり。ちなみにソフトクリームを“巻く”のもお手のもの。
札幌駅から地下鉄南北線で2駅(乗車時間4分)の「北18条駅」下車徒歩1分。「みんなでつくるみんなの本屋」がコンセプトの新刊書店。古本の取り扱いもあり。お店では今回の記事公開に合わせて、紹介した本を集めたフェアを開催(詳細は下記SNSを参照)。
@seesawbooks_n18
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HP:https://seesawbooks.com/